特集

レジ袋の削減から始まるエコライフスタイル

富山県 生活環境文化部 環境政策課



1.はじめに


サクラの開花の早まり、真夏日の増加、カエデの紅葉の遅れ。地球温暖化の影響は、 県内でもすでに現れている。このままでは世界の平均気温は今世紀末に最大6.4℃上昇して、洪水や暴風雨の増加、生物種の絶滅などを引き起こすと言われており、地球温暖化対策はまさに待ったなしの状況である。

京都議定書に基づく温室効果ガスを2012年度までに1990年度比で6%削減という目 標に対し、05年度には逆に日本全体で7.7%増、富山県でも4.6%増となっている。特に家庭部門では31.5%増えており、目標を達成するためにはまず私たちの生活スタイルを見直すことが必要である。(図1参照)

 

図1 富山県の部門別の温室効果ガス排出量の変化([  ]内は構成比)

 

資料:環境政策課

 

こうした中、レジ袋を断り、マイバッグを使う行動は数あるエコライフの取組みの 中でも、「目に見える」行動である。例えば、冷暖房の温度の調節やエコドライブなどは、取り組んだ本人にしか分からないが、マイバッグを使う行動は周りの人にも分かる行動である。

一人がマイバッグを持参すれば、それを見た周りの人へと取組みが広がることが期待できる。そして、マイバッグを使うことが当たり前になれば、それをきっかけに、他のエコライフの取組みにもつながる。こうしたことから、レジ袋の削減は生活スタイルを見直すきっかけであり、環境にやさしい生活スタイルのシンボルとなっている。

また、富山県内では、1年間に約3億枚のレジ袋が使用されていると推計されるが、 これらの削減によって、

製造に必要な、ドラム缶2万8千本(約5,500kl)に上る石油の節約(約4,700世帯が消費する年間エネルギーに相当)

製造と焼却により排出される1万8千トンのCO2の削減(エアコン約3万7千台が 1年間に排出するCO2の量に相当)

約3千トンのごみの削減

につながることから、資源の節約や地球温暖化防止、ごみ減量化の観点からも、重要な取組みとなっている。 



2.レジ袋削減推進協議会の設立


県内では10年以上前から消費者団体や婦人会などがマイバッグ運動に取り組んできたが、マイバッグ持参率はここ数年20%程度と伸び悩んでいた。

また、レジ袋の削減のためには無料配布取止めが効果的だが、その実施には「他店に客が流れない体制づくりが必要」などとして慎重・消極姿勢の小売事業者がほとんどだった。

そうした中、消費者団体などから要請があり、また事業者の不安解消には広域的な取組みが不可欠であることから、県が呼びかけ、平成19年6月に事業者、消費者団体、行政の3者でレジ袋削減推進協議会が設立された。

 

富山県レジ袋削減推進協議会の概要
会    長 宮下 富山県環境審議会会長
事 業 者 スーパーマーケット10社・1協同組合(123店舗)
消費者団体 6団体
県消費者協会、県婦人会、県生活学校連絡協議会、
県PTA連合会、県環境保健衛生連合会、
とやま環境財団
行    政 県(協議会事務局)、市町村


3.レジ袋削減推進協議会の活動の経緯


平成19年6月の発足以降、協議会では、レジ袋有料化の先進事例研究などを行ってきたほか、メンバーが共通認識を醸成するためにも、県民に向けたメッセージとなるものをまとめようとの提案があり、「なぜ削減が必要なのか」などを盛り込んだ「レジ袋削減の理念」が取りまとめられた。

紆余曲折もあったが、この理念のもと、議論を重ねていただいた結果、11月の協議会で地元スーパーをはじめ各スーパーが個々に無料配布取止めの実施を表明され、平成20年4月から県内全域で実施されることとなった。(図2参照)

 

図2 協議会での議論の流れ



4.レジ袋の無料配布取止めの概要


無料配布取止めが混乱なく実施されるか、一部に懸念する声もあった。そのため、平成20年1月から3月まで無料配布取止めの趣旨について、

 

県内4会場でのシンポジウムの開催
県広報誌、テレビ、ラジオ、新聞を通じたPR
市民団体や経済団体などの会合への出前講座
啓発チラシの全戸配布

 

などにより、事業者、消費者団体、行政が連携して、徹底的な啓発、周知に努めた。

また、事業者、消費者団体、行政のそれぞれの役割と相互の連携協力を確認するため、3月に各事業者と団体、行政の三者による協定を締結した。

こうした経過を経て、4月1日から、全国で初めて県内全域の主要スーパーマーケット、クリーニング店において一斉にレジ袋の無料配布取止めがスタートしたが、その概要は、次のとおりである。

 

実施店舗は、4月1日時点ではスーパーマーケットは27社の120店舗、クリーニング店は1社の88店舗、合計28社208店舗
レジ袋の価格は、スーパーマーケットは1枚5円、クリーニング店は1枚10円
レジ袋の収益金、これはレジ袋の価格から袋の原価と消費税を除いた額であるが、全ての事業者が地域の環境保全活動等に活用することになっている。


5.レジ袋の無料配布取止めの輪の広がり


無料配布取止めは円滑に実施され、無料配布取止め後3ヶ月(4/1〜6/30)のマイバッグ持参率は実に92%に達している。

この3カ月間の取組効果を試算したところ(無料配布取止め前に、一人当たりレジ袋1.5枚使用していたとして算出)、

 

削減できたレジ袋は約2,929万枚
二酸化炭素の削減量は、杉の木51万本の吸収量(1,787t)に相当
石油の削減量は、200 l入りドラム缶約2,680本分(約536kl)で、1,832世帯のエネルギー消費量に相当


などの結果が得られた。

また、無料配布取止めの実施店舗についても、4月1日時点では28社208店舗だったが、4月以降も拡大しており、8月1日時点では38社290店舗(10社82店舗の増加)となっている。

さらに、6月にレジ袋の無料配布取止めに関して実施店舗の店頭において、買い物客に対する聞き取りアンケート調査を実施したところ、

 

無料配布取止めに賛成の方が70%で、反対の方は9%であった。
80%の方が「これをきっかけに環境に優しい行動に取り組もうと思う」と答えている。

 

また、5月に行った「レジ袋の無料配布取止めに関するアンケート調査」の結果からは、「マイバッグを持参する理由」として、「ごみ減量化のため」、「温暖化防止のため」をあげた方が多かった。

こうしたことを踏まえると、今回の取組みには、予想を超える多くの県民の皆さんにご理解とご支持をいただいていると考えられる。(図3参照)

 

図3 レジ袋の無料配布取止めに関するアンケート結果

 

・調査日時 平成20年6月8日(日)
・調査場所 富山県内スーパー3店舗(県東部、県西部、県中部の各1店舗)の店頭
・調査方法 買い物客に対する聞き取り調査
・調査人数 528人(男性130人(25%)、女性398人(75%) )


6.「レジ袋の無料配布取止め」実現の要因


県内全域でレジ袋の無料配布取止めを実施できたのは、三つの要因があると考えられる。

1番目は、何よりも消費者団体や婦人会の熱心な取組みである。10年以上にわたる取組みがベースとなり、その熱い思いが事業者の背中を後押しして、無料配布取止めが実現できた。

2番目は、事業者の環境保全への理解とCSR(企業の社会的責任)への高い意識である。

3番目は、行政がその姿勢を明確に示すことである。実現の際には行政からの支援が得られる確証があったことも、事業者が大きな決断をする際の判断要素になったのではないかと考えられる。



7. 今後の課題


今後の課題の1点目は、マイバッグ持参を一過性のものではなく、日常生活の中で当たり前の行動として定着させることである。。

このため、今年度、県民総ぐるみの「ノーレジ袋県民大運動」を展開し、4月からは環境とやま県民会議の構成117団体によるマイバッグ持参の率先行動を、6月には消費者団体や実施店舗企業からレジ袋削減の実践事例の発表を行っており、また、7月からは子供から大人まで誰でも参加できるようなマイバッグデザイン・アイデアコンテストを実施している。

また、4月以降も実施店舗は拡大しているが、引き続き、現在参加していないスーパーや、ドラッグストアなどの他業種にも、順次、参加を働きかけていくこととしている。

課題の2点目は、レジ袋の削減をきっかけに、県民の生活スタイルを環境にやさしいエコライフスタイルに変えていくことである。

このため、引き続き、身近な10のエコライフの取組みの実践を宣言する「とやまエコライフ・アクト10宣言」キャンペーンを実施(図4参照)するとともに、新たに幼児とその保護者を対象としたエコライフ実践教室の開催やスポーツ会場などでの飲料用リユースカップのモデル導入、エコドライブ推進大運動などに取り組むこととしている。

また、地球温暖化防止に向けては、こうした「暮らし」の場だけでなく、あらゆる場面で総合的に取り組んでいくこととしており、省エネ設備やエコバス、新エネルギーの導入を推進するとともに、森林の整備保全などにも取り組むこととしている。

 

図4 身近な10のエコライフの取組み

 

※この記事は、廃棄物学会誌第19巻第5号(平成20年9月末発行予定)の特集記事として作成した原稿を編集したものである。




とやま経済月報
平成20年9月号
図9 地方自治体のHP開設率の推移(%) 図8 情報消費量の推移(平成7年=100)