特集

Welcome to NOWPAP

富山県 観光・地域振興局 国際・日本海政策課


1.はじめに


グローバル化、グローバライゼーション(または、グローバリゼーション)といったことが言われるようになってずいぶん久しくなります。このまさに地球全体を覆いつくす時代の潮流は、年を追うごとにエネルギーを増し、とどまるところがないように見えます。

私たちの周りを見わたしても、海外からの輸入製品があふれ、今や“MADE IN JAPAN”と刻印された製品を見つけるほうが困難なほどです。

富山県に限ってグローバル化の状況を見ても、県全体の人口が10年前の1998年にピークをうち、すでに減少局面に入っているのに対し、県内における外国人登録者数は過去四半世紀にわたって増加を続け、昨年末現在で15,370人と、はじめて15,000人の大台を超え、約7倍にまで膨れ上がっています。

富山県の人口と県内外国人登録者数の推移

富山空港には、ソウル、ウラジオストク、大連、上海と4つの国際定期路線が就航し(2008年7月現在)、年間約10万人が利用するまでになっています。また、伏木富山港には、ロシア(ボストーチヌイ)、中国(大連、天津、青島、上海、寧波)、韓国(釜山、光陽、蔚山)の各港との間に4つの外国貿易コンテナ定期航路(月33便)があり(2008年7月現在)、そのコンテナ貨物取扱量は2001年から2006年までの間に2.4倍と飛躍的に増加しています。

このように、グローバル化や日本海沿岸諸国の急激な経済発展などを背景に、富山県と、特に環日本海諸国を中心とした世界各国との社会的・経済的交流は大変活発になっています。「国際化」は、かつての海外旅行がそうであったような、よそいきの、かしこまって特別に準備するといった類のものではすでになく、日常の普段着の生活の中に、隣り合わせて存在するものになったといえるでしょう。


 

2.環境問題への国際的な取組み


さて、去る7月7日から9日まで開催されたG8北海道洞爺湖サミットでは、環境と気候変動が主要議題の一つとされました。このことに象徴されるように、私たち人間の社会的・経済的活動の規模・範囲がグローバルに拡大するにつれ、その地球環境に及ぼすインパクトが、近年特に大きな問題として広く認識されるようになっています。

とりわけ、国や地域の境界を越えて容易に汚染・影響が広がる大気や海洋にかかわる環境問題については、国際的な協調体制による取組みが不可欠です。このため、1972年6月、ストックホルム(スウェーデン)で、環境問題について話し合う国連人間環境会議*1が「かけがえのない地球」を合言葉に開催されました。会議には世界113カ国の政府代表が集い、人間環境宣言*2、環境国際行動計画*3などを採択し、これらを実施に移すための機関として、同年12月の国連総会決議に基づき、国際連合環境計画(国連環境計画: UNEP(ユネップ)*4)が設立されました。

 

*1 国連人間環境会議:UN Conference on the Human Environment
*2 人間環境宣言:Declaration of the United Nations Conference on the Human Environment
*3 環境国際行動計画:Action Plan for the Human Environment
*4 国連環境計画: UNEP:United Nations Environmental Programme


3.国連環境計画(UNEP)


UNEPは、ナイロビ(ケニア)の本部のほか、世界に6つの地域事務所を置き、オゾン層保護、気候変動、有害廃棄物、海洋環境保護、水質保全、土壌劣化阻止、森林問題、生物多様性保護等を主な活動分野とし、様々な取組みを世界各地で展開しています。

このうち地域海行動計画*5は、UNEP設立間もない1974年に開始された取組みで、UNEPの30年余りにわたる歴史の中で最も重要な成果の一つといわれています。この地域海行動計画は、世界の海洋やその沿岸地域で進行する環境悪化に対処しようとするもので、関係諸国が協力しながら、海洋・沿岸環境の持続的な管理と利用をはかろうとするものです。

地域海行動計画は現在、地中海、カリブ海、黒海など世界18地域で策定されており、このうち、私たちにとって最も身近な海である日本海と、黄海を対象としているのがNOWPAP(ナウパップ) (Northwest Pacific Action Plan: 北西太平洋行動計画)です。


*5 地域海行動計画:Regional Seas Programme: RSP


4.NOWPAP


4-1) NOWPAPの背景

NOWPAP は北西太平洋地域(日本海及び黄海)の海洋環境の管理と海洋・沿岸地域の資源の管理を目的として、1994年に採択された計画です。現在、日本、韓国、中国そしてロシアの沿岸4カ国がこれに参加しています。

NOWPAP が対象とする北西太平洋地域は、世界的に見ても希少性の高い、多種多様な海洋生物が生息することに加え、商業的にも重要な漁業資源が豊富に存在する独自の生態系を持っています。

同時に、この地域は世界でも有数の人口密集地域であり、更には経済発展の著しい地域でもあります。基本的にわれわれ人間の活動はすべからく何らかの負荷を環境に与えるものですが、この人口の多さと急激な経済発展という二つの事実は、経済活動の活性化に伴う産業部門からの環境負荷の増大に加え、巨大な人口が、より豊かな(環境負荷の高い)生活様式に移行することによって惹き起こされる民生部門からの負荷の増加が同時に発生していることを意味します。

 

4-2) 日本海と環境問題

ここで日本海の特徴から環境問題について考えてみます。日本海はその近隣の海との海水の出入りが極めて限られた、典型的な閉鎖性海域です。近隣の海とはNOWPAP 対象範囲対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡そして間宮海峡の4つの海峡によってつながるだけです。しかも日本海そのものが深い海(平均水深約1,450m、最大水深3,700m以上)であるのに対し、これら4つの海峡はいずれも極めて浅く、最も深い対馬海峡でもわずかに水深約130m、最も浅い間宮海峡にいたっては、わずかに12m程度しかありません。

いってみれば、日本海は巨大な湖のようなもので、ひとたび海洋汚染が発生すれば、この浄化が非常に困難であろうことは想像に難くありません。

このため、日本海を含む北西太平洋地域の住民が、将来にわたって豊かな海の恩恵を享受し、子孫のために海洋・沿岸地域の環境が守られるよう、関係各国が参加・協力するNOWPAPの取組みが大変重要なものとなっています。

 

4-3) NOWPAPの機構と活動

では、そのNOWPAPは、どのような仕組みで、どのようなことをしているのでしょうか。

NOWPAP は、最高意思決定機関として政府間会合(IGM)*6、本部事務局としての役割を担う地域調整部(RCU)*7、そしてNOWPAPの事業を担当する4つの地域活動センター(RAC)*8で構成されています。

※表をクリックすると大きく表示されます

NOWPAP 機構概念図

IGMは、参加各国の持ち回りで、毎年1回開催されます。この場において、NOWPAPの予算、活動方針などが決定されます。

RCUは、NOWPAPの事務局機能を担う地域調整部として、事業の調整、各種会合の開催、参加各国や関係国際機関との連絡調整などを行う、NOWPAPの活動の中枢を担う機関で、2004年11月に富山と韓国・釜山に共同で設置されました。NOWPAP RCU 富山事務所は日本海側で初めて設置された国連機関であるばかりでなく、国内に2つしかないUNEPの機関のひとつです。

NOWPAPの実質的な活動を担うRACは、4つの参加国に各々1つずつ指定され、以下のような活動を行っています。

人工衛星を活用したリモートセンシングによる海洋環境のモニタリング
海洋・沿岸環境に関するデータ・情報システムの確立
油流出事故のような海洋汚染の緊急事態への準備・対応
海洋・沿岸環境モニタリング活動の調整・協力体制の確立

さらに近年深刻化する海洋ごみの問題にNOWPAPでも取り組むことが2005年11月に富山で開催された政府間会合で決定され、2008年3月には海洋ごみに関する地域計画が採択され、RCUの調整のもと各RAC、各国が協力して様々な取組みを進めています。

日本国内では、富山県が中心となって設立した財団法人環日本海環境協力センター(富山市)が、人工衛星等によるモニタリング及び沿岸環境評価を担当する地域活動センター(CEARAC(シーラック))*9に指定されています。

 

*6 政府間会合(IGM):Inter Governmental Meeting
*7 地域調整部(RCU):Regional Coordinating Unit
*8 地域活動センター(RAC):Regional Activity Center
*9 CEARAC:Special Monitoring & Coastal Environmental Assessment Regional Activity Centre


5.おわりに(NOWPAPと富山県)


RCU富山事務所の開設から4年近く経過しましたが、この間、2005年11月の第10回政府間会合をはじめ、多くの国際会議等が富山で開催されるなど県内においても活発な活動が展開されています。また、当初英語版だけだったウェブサイトも、日本語版(http://www.nowpap.org/main_j.php)が開設されているほか、RCU富山事務所職員による県内での出張講演が行われるなど、より積極的なNOWPAPの普及・啓発活動も進められています。

富山県としては、

海洋環境等に関する国際会議が富山県で開催されることにより、国外の専門家と、県内関係者との交流の促進が期待されること
環境保全に関する最先端の情報が集積されることにより、県内の大学・研究機関、産業界の水準の向上が期待されること
国連機関が県内に存在することで、国連の活動に対する県民、とりわけ若者の意識の高まりが期待されること
国際会議が県内で開催されることで、若者の視野が広がり、国際感覚の醸成とグローバルに活躍する人材育成につながることが期待されること

などから、今後とも、富山市、とやま国際センター、環日本海環境協力センターなどの関係機関と協力し、NOWPAP RCU富山事務所の運営及びCEARACの活動の支援を通して、北西太平洋地域の環境保全に貢献していきたいと考えています。



参考文献等




とやま経済月報
平成20年8月号
図9 地方自治体のHP開設率の推移(%) 図8 情報消費量の推移(平成7年=100)