特集

東海北陸自動車道全線開通への期待(その3)
中京圏からの観光客をとりこめ!

富山県 観光・地域振興局 観光課


 
その1 全線開通までの歩み (土木部 道路課)
(商工労働部 立地通商課)

1.いよいよ大動脈がつながった


7月5日(土)17時、五箇山インターに近い五箇山合掌の里。インターから下りた車が次々と合掌の里の駐車場にやって来る。お目当ては、この日の東海北陸自動車道全線開通を記念して開催される五箇山伝統芸能祭(南砺市・南砺市観光連盟・五箇山観光協会主催)。富山ナンバーに混じって、岐阜、愛知、三重など中京圏ナンバーの車両も多い。

全通イベント(五箇山伝統芸能祭)

県内外の観光客は、夕方の爽やかな風を感じながら、合掌造りの家屋の中庭で披露される「こきりこ」や「麦屋節」など五箇山の伝統芸能を楽しんだ。また、特別ゲストとして出演した郡上おどり保存会(岐阜県郡上市)の活気ある踊りを見た地元五箇山の皆さんが「初めて見た、凄いなあ」と感嘆する。日本海側と太平洋側を結ぶ大動脈がつながったことを実感した瞬間だった。

 

東海北陸自動車道の全線開通は、中京圏から本県へのアクセスの向上に伴う観光客の増大と、魅力ある本県の観光地と中部圏の観光地を巡る広域観光、国際観光の促進など、富山県の観光振興にとって、大きなチャンスである。(財)北陸経済研究所は、全線開通により富山県の観光客数の増加は42万人、また、それによる富山県全体への経済波及効果はおよそ195億円と試算している(北陸経済研究2007年3月号)。


 

2.中京圏からの観光客増加に期待


富山県が平成18年に行った調査(富山県観光戦略基礎データ調査)では、本県を訪れる観光客の居住地は、関東(29.7%)、隣接県(27.0%)、関西(19.1%)、中京圏(11.3%)であり、中京圏からの観光客は関東・関西からよりも少ない。逆の見方をすれば、今後、中京圏からの観光客の伸びしろが大きいとも言えよう。本県の県外からの観光客の主な交通手段のおよそ半数が「自家用車」(同調査)であることを勘案すると、北陸自動車道と比べて時間距離・料金面で優位にある東海北陸自動車道の全通は、中京圏からの観光客増加に大いに資すると期待される。

同調査によると、富山県を訪れる県外観光客の実に7割がリピーターである。旅行の動機も「一度来て、よかったから」や「知人などの薦め」が多い。つまり、一度、富山県に来ていただければ、本県の魅力を十分楽しみ満足していただけるのだ。

それでは、どうしたら、東海北陸自動車道の全通を契機にその「一度」に踏み切ってもらえるのだろうか。

 

図1 富山への主な交通手段 (県外・海外観光客のみ)


図2 富山への旅行回数(県外・海外観光客のみ)


図3 旅行の動機となった情報の入手先


富山県観光戦略基礎データ調査の詳細については
こちらからご覧ください。


3.「富山県」の知名度をあげる


県内には、立山黒部アルペンルートや黒部峡谷などの美しい自然景観、おわら風の盆などの多様な祭り、世界遺産五箇山合掌造り集落などの歴史・文化、ブリやホタルイカといった食など全国的にも知名度の高い観光資源が数多くある。しかしながら、これらの観光資源が富山県にあるということが、十分知られておらず、富山県の観光イメージと結びついていない面があることは否定できない。その結果、実際よりも「交通が不便だ」というイメージの方が先行し、敬遠されたり、富山県を核とした旅行が行われにくくなっている可能性がある。

観光イメージは、各地の観光資源や観光地のそれぞれが一体となって、全体として創られるものであるが、この観光イメージを高めることが各観光地のプラスにもつながっていくことから、「富山県」の知名度を向上させることにより、観光イメージを高めていくことは本県の観光振興にとって大変重要である。

 

県では、「富山県」の知名度や魅力の認知度向上のために、昨年新たに制定した観光キャッチフレーズ「パノラマキトキト 富山に来られ」を前面に、大都市圏等での大規模広告など、効果的な媒体を活用して戦略的に観光PRを実施し、県内の魅力ある観光資源が富山県の観光イメージと結びつくように取組んでいるところである。

特に、本年は、東海北陸自動車道の全通により、中京圏からのアクセスが向上することから、中京圏からの誘客促進に例年以上に力を注いでいる。5月には、JR名古屋駅の吹き抜け空間に、立山連峰、シロエビ、五箇山合掌造り集落をあしらった巨大な懸垂幕を掲示する思い切った大規模広告を行ったほか、マスメディア訪問、観光PRキャンペーン、旅行代理店向けの観光説明会の開催などあらゆる機会をとらえて様々な取組みを行なっている。県の取組みに連携・並行して、市町村や民間の取組みも行われており、中京圏における「富山県」の露出度が昨年よりもかなり多くなっていることは間違いない。こうした取組みは今後も続く。


さらに、大規模広告等以外にも、実際に中京方面から東海北陸自動車道を利用して楽しみながら富山県に来ていただくために、県では岐阜県と連携して、両県の見所を紹介した広域観光ロードマップ「富山と岐阜のめぐる〜と」を作成したほか、両県の道の駅をめぐる「道の駅スタンプラリー」を実施している。

また、東海北陸自動車道を利用して来県される方々に、県内の各店舗において記念品・試食品の進呈、利用料金の割引などの様々なサービスを提供する「富山に来られ!キャンペーン」も展開中である。



4.地域間競争の激化―受入態勢のさらなる充実を


では、中京圏をはじめとする県外からの観光客の受入態勢は整っているだろうか。

先ほど、富山県への観光客はリピーターが多い、一度来ていただければ、魅力を感じていただけると述べた。そのとおりである。しかし、今日、観光を取り巻く状況は、団体旅行から個人旅行へのシフト、旅行形態の多様化など大きく変化しているほか、各県においても観光に対する取組みが活発になっており、地域間競争が非常に激しくなっていることも事実である。

東海北陸自動車道の全通は、逆にみれば富山県から中京圏へのアクセスの向上でもあり、実際、郡上市観光キャラバン隊や名古屋圏観光宣伝隊といった中京圏からの積極的なアプローチが全通後、展開されている。

また、基幹高速道路の整備は広域的な移動を可能にするため、観光はより広域化する傾向にある。広域観光の推進は、他の地域との連携を図るとともに、観光地として富山県を選んでもらうことでもある。

東海北陸自動車道の全通による、中京圏の大都市の人口・購買力の吸引といったいわゆるストロー効果の面を常に念頭に置きながら、近隣観光地間との競争の激化に打ち勝つためには、自然や食、祭りや文化遺産といった富山ならではの観光資源に磨きをかけるとともに、観光客が富山県内に滞在し周遊しやすい受入態勢を整備することが非常に重要である。

県では、県内での滞在時間を伸ばそうと、通年型・滞在型観光の実現に向けて、県内発着の着地型・滞在型観光商品の企画・販売を行う取組みの支援や、ものづくり県をアピールすべく産業観光を実施する企業に対する支援などを行い、新たな魅力の創出に取組んでいる。

また、観光案内板・標識の整備、ホテル旅館などの施設改善、接客研修など「おもてなしの心」の醸成等にも取組んでいるほか、新しい観光キャッチフレーズを周知・活用することで、県民の皆さんの観光振興マインドの醸成にも努めているところである。



5.おわりに


中日本高速道路(株)が発表した全通後1週間の状況によると、今回の開通によって、開通区間に隣接する区間などで交通量が増加しており、開通前と比較して白川郷〜五箇山で約3.5倍、荘川〜飛騨清見で約2倍となっている。

「東海北陸自動車道(飛騨清見IC〜白川郷IC間)開通後1週間の交通状況(速報)」

着工から36年かけて平成20年7月5日につながった大動脈は好調なスタートを切った。それはまた、大交流時代の幕開けでもあり、繰り返すが、富山県の観光にとってはまさに大きなチャンスの到来なのである。

観光は、観光関連産業への直接的な経済効果をはじめ、農林水産業、飲食業など他産業への波及効果が大きいと言われている。また、交流人口の拡大により、経済のみならず、地域の活性化や文化の振興に寄与するものであり、ひいては「元気とやま」の創造に大きく貢献するものである。

幸い、本県では、今般の東海北陸自動車道の全線開通、また平成26年の北陸新幹線開業を控え、観光客の誘客のための条件が充実しつつある。これらを活かしながら、観光関係者、県、市町村、そして幅広い県民の皆さんが参加協力し、本県の魅力的な観光資源のブラッシュアップ、新たな魅力の創出や受入態勢の整備を進めるとともに、富山県の観光イメージを高める情報を国内外に、より効果的に発信していきたい。




とやま経済月報
平成20年8月号
図9 地方自治体のHP開設率の推移(%) 図8 情報消費量の推移(平成7年=100)