特集

「韓国の資源リサイクル事情」

富山県 国際・日本海政策課
(財)自治体国際化協会ソウル事務所派遣職員
上田明美


1.はじめに


富山県の職員として韓国に赴任し、1年半が過ぎました。赴任当初は、毎日が驚きと発見の連続だったような気がしますが、今では自分の行動がすっかり韓国人のようになっているように感じる時さえあります。今回は、日本よりも取組みが進んでいるといわれる韓国のリサイクル事情(韓国語ではリサイクルは「再活用」と言います。)について、私が生活の中で体験したことを中心にご紹介したいと思います。



2.スーパーの袋ってタダでもらえないの?


韓国で、最初に驚いたと同時に不便だと感じたのが、スーパーで買い物をしても袋をもらえないことでした。日本でも一部のスーパーや自治体が独自にレジ袋削減のための取組みを行っていますが、韓国では、1992年に制定された「資源のリサイクル促進に関する法律」によって積極的なリサイクル政策が進められており、1999年からは使い捨て製品の規制が強化され、レジ袋の有料化が法制化されました。このため、スーパーの買い物袋は有料で50ウォン(約6円 100円=800ウォン)から100ウォン(約12円)程度のお金を払わなくてはいけません。このことを知らない日本人の旅行客が「買い物をしたのにレジ袋をもらえなかった。」と憤慨している話をたまに聞くのですが、これはプラスチックごみ削減のために義務化されているものなので、決してお店のサービスが悪いわけではありません。

赴任当初は、会社の帰りにスーパーに立ち寄って買い物をする度に、この量ならそのままかばんの中に入れるべきか、お金を出して袋をもらうべきかを、店員のアジュンマ(おばさん)が品物をレジに通す数十秒の間、頭を悩ませていました。しかし、周囲の韓国人の行動を見ると、環境問題を意識してマイバックを必ず持ち歩くという人はあまりいないような気がします。団地の中にある比較的規模の小さいスーパーなどではマイバックを持参している人も見かけますが、それ以外では、小さい買い物ならそのまま自分のかばんに入れるが、たくさん買う場合は、袋を買うという人が多いように思います。

また、マクドナルド、ロッテリア、スターバックスといったファーストフードチェーン店でも再利用容器の使用を積極的に進めています。日本ではこういったお店の飲み物は使い捨ての紙コップで提供されるのが一般的ですが、韓国ではプラスチックのコップで提供されます。また、テイクアウト用の紙コップ(韓国では「一回用品」という)を利用する場合は、レジで50ウォン(約6円)が加算される仕組みになっています。しかし、あらかじめ加算された紙コップの代金は、飲み終わった後に、お店にその紙コップを持って行くと代金を返してくれることになっています。



3.新聞は回し読み?


通勤で毎日利用するソウルの地下鉄ですが、最初にびっくりしたのが、人々が、読み終わった新聞を荷物棚に投げ捨てて降りていくことです。そしてさらに驚いたことは、次に乗り込んだ人が、荷物棚に新聞があるとそれをさっと拾って何事もなかったようにその新聞を読んでいることです。日本だとちょっとためらってしまうこの新聞の回し読みですが、見慣れてくると、とても合理的で紙資源の節約になっているような気もします。実際に私も駅前に置いてある無料新聞(※1)がなくなっている時は、荷物棚の新聞を読んでいます。そして通勤ラッシュがひと段落した頃になると、大きな袋を抱えた老人が荷物棚の新聞を一斉に回収しに来ます。回収した古新聞を古紙業者に売って収入を得ているのだとか。

紙類のリサイクルの方法については、家庭から出る紙類は自治体が、学校・事業所などから出る紙類は民間の収集業者が回収します。これらの回収された紙類は中間処理業者に持ち込まれ、分別・圧縮・運搬後再生紙としてリサイクルされています。


(※1)韓国では朝鮮、中央、東亜日報などが全国紙として有名ですが、ソウル市内では、数年前から地下鉄の駅などで無料の新聞が配布されるようになりました。無料新聞といっても、広告ばかりということはなく、ニュース、スポーツ、芸能情報など一般紙と比べても遜色のない内容になっています。地下鉄の中を見ても、大部分の人はこの無料新聞を読んでいます。



4.食事をしたらいつでもおなかいっぱい


韓国人は、食事を非常に大切にします。食事は大勢で楽しく(一人で食事をするのは友達がいないかわいそうな人という認識があるぐらいです。)そしてたくさん食べるというのが基本です。食事前には「ご飯をおいしく召し上がってください。」、食事が終わったら「ご飯は何を食べられましたか」など食事に関する挨拶を交わすのが普通です。

韓国で外食をすると、ありがたいことに、注文したメニュー以外にもたくさんのおかずがテーブルに並べられます。しかもこれらのおかずは全て無料、そしてもっと食べたければおかわりも自由なのです。客人が来たときには、「お膳の脚が折れるほどに皿を並べよ」という言葉があるほどに、とにかくたくさん食べてもらうというのが韓国の食文化の基本にあります。これらのおかずは、全く手が付いていない、もしくはほとんど手が付いていない場合は、盛りなおして次の客に使われるようですが、それでも必然的に捨てられる量は多くなってしまいます。

こういった中で、ソウル市江南区では、一日に約180トンに達する残飯を減らすために「おかず注文方式」「半分メニュー」などの対策を5月から試行し、優秀な飲食店には様々な特典を提供することにしました。「おかず注文方式」とは、例えば代表的な韓国料理であるキムチ鍋を頼んだ場合、ご飯とキムチ鍋などを基本的に提供し、のりや玉子焼きと言ったおかず類は客が注文した場合にだけ提供されることになります。また、もともと提供されるおかずの少ないサムゲタン(鶏の腹に高麗人参やナツメ、ニンニクなどの漢方薬を詰めて作る料理)や中華料理などのお店では、メインメニューの量を客が選択できるような「半分メニュー」の導入が推奨されています。区ではこれらの制度を試行する飲食店に「模範飲食店であることを表示」、「メニュー表の交換費用の支援」、「衛生検査の2年間保留」、「施設改善資金の融資」などの特典を与える方針です。しかしこの江南区の取組みについて、周りの韓国人に聞いてみると、「おかずを無料でくれないケチくさい食堂には絶対に行かない!」、「食べ残しが多くなるのはわかるが、おかずを無料で提供するのは韓国の食文化の伝統なのでやむを得ない。」など懐疑的な意見の人が多いようです。



5.ごみ袋が高い!!


赴任当初は、ゴミの出し方をよく知らずにアパートの管理アジョッシ(おじさん)に怒られていました。最初に注意を受けたのが、区の指定のゴミ袋を使っていなかったことでした。さっそくスーパーに指定のゴミ袋を買いにいったのですが、あまりの高さに驚いてしまいました。それぞれ20枚ずつ入っている、中サイズ(20リットル)と小サイズ(10リットル)のゴミ袋の価格がなんと10,000ウォン(約1,250円)。しかも環境にやさしい高密度ポリエチレンで作られているからか弱く、ゴミを詰め込みすぎるとすぐに破けてしまいます。

ゴミの出し方にも細かい決まりがあります。韓国では戸建住宅より高層アパート(1棟の戸数は約150軒)の比重が高く、全国平均でも48%、ソウルでは60%近くがアパートに住んでいます。アパートの場合、2〜3棟ごとに回収場所があります。ゴミの分類は非常に細かく分けられています。分類の仕方は、自治体によっても多少異なるようですが、私の住む区では、瓶、缶、ペットボトルなどのプラスチック容器、ダンボール、新聞、牛乳パック、発泡スチロール、生ごみ、そして前述の指定ゴミ袋に入れるその他のゴミに分けて出すことになっています。指定ゴミ袋に入れて出すゴミは毎日回収されるのですが、それ以外のゴミ(リサイクル可能なもの)は1週間に1度まとめて出すことになっています。その日になると夕方ごろから、アパートの住民たちがペットボトルや新聞紙などを抱えてゴミを捨てに来ます。警備アジョッシと「婦女会」と呼ばれるアパートの婦人会のアジュンマがアパートの住民たちが決められたとおりにきちんとゴミを出しているかを厳しくチェックしています。瓶、缶と言った品目ごとに専用の大型ボックスが設置されているのですが、間違って入れようものなら厳しく咎められます。最初の頃は何か言われるのではないかとびくびくしながらゴミを出していたものです。

家電製品、家具などを捨てるときには、回収・処理にかかる手数料を自治体に払ってステッカーを買い、そのステッカーを貼って捨てることになります。また、新品の家電製品を購入する場合は、旧製品を無料で回収してくれることになっています。



6.最後に


最後に廃棄物の処理の実態についてですが、韓国全体で見ると、1995年には埋立処理が72.3%、リサイクルが23.7%、焼却処理が4%となっていましたが、2005年には、リサイクルが56.3%、埋立処理が27.7%、焼却処理が16.0%とリサイクルされる割合が一番高くなっています。韓国がこのようにリサイクルを積極的に推進する背景には、日本同様に国土が狭く、埋立による処分が難しいことが挙げられます。現在、首都圏(ソウル市、仁川市、京畿道)から搬入される廃棄物の埋立処理は、主に仁川市にあるドリームパーク(首都圏埋立地)で行われています。1992年から2022年までに約2億2800万トンを埋立予定であり、現在、全体の約60%の埋立が完了しています。埋立後は、環境生態公園や体育公園などを備えたドリームパークとして生まれ変わる予定です。私も一度視察したことがあるのですが、既に埋立を完了したところが、サッカー場として活用されていました。

韓国全体の廃棄物(生活廃棄物、事業場廃棄物)の発生量は、1990年代には1日当たり20万トン以下で推移していましたが、2000年以降は、特に事業場廃棄物が10%以上の増加を続けており2004年には30万トンを超えましたが、2005年には29万トンと再び減少に転じています。この傾向が今後も続いていくかどうか、注目して見守っていきたいと思います。



とやま経済月報
平成19年10月号