統計用語のあれこれ(3)
−季節調整について−
1.はじめに
皆さんは統計にも季節があることをご存知ですか。
たとえば、新聞に発表される各種統計の記事を注意深く読んでみると、次のような括弧つきの表現に出会います。
「○○月の完全失業率(季節調整値)は4.3%と,前月に比べ0.1ポイントの低下」
「○月の生産は前月比1.2%と2か月ぶりの上昇(前年同月比は1.6%上昇)となり、指数は101.2(季節調整済)となった。」
これらに登場する「季節調整値」、「季節調整済」という言葉こそが、その統計にも季節があり、季節を調整している、ということを表しています。
それでは、なぜ季節を調整する必要があるのでしょう。また、調整するとはどのようなことをいうのでしょうか。
今回は毎月県が公表している「富山県鉱工業生産の動き」の中の生産指数を用いて、季節調整についてご紹介していきましょう。
2.季節変動と季節調整
たとえば物の消費量をみると、新生活を迎える人が多い年度末や、夏、冬のボーナス期が増加します。また、クリスマス、お正月などの毎年恒例の行事の時にも増加するでしょう。そのような消費量の変化に合わせて、生産側も通常より多くの供給を行うため、毎年決まった時期に生産量が増加します。また、生産工場においては、GWやお盆、お正月などの連休がある月は、製造ラインを一時的に停止するため生産量が少なくなります。
このように、季節が要因となり毎年決まった時期に起こる変動は、1年を周期とした定期的な変動パターンとしてみることができ、これを季節変動といいます。そして、単純に集計した統計から季節変動を取り除くことを季節調整といいます。
経済指標や時系列データには、以下のような季節変動があげられます。
自然条件による季節変動 … 天候や気温による農産物の収穫期の変化など 営業日数による季節変動 … 年末年始、GW、夏休みなどの祝祭日と休暇の日数 経営条件による季節変動 … 企業の決算期、年度末、四半期の節目など 需要面による季節変動 … ボーナス月や、お中元、お歳暮、クリスマスなどの社会習慣 供給面による季節変動 … 原料、資材、動力などの季節的制約による供給面の変化
3.鉱工業生産指数と季節調整
「富山県鉱工業生産の動き」の生産指数とは、毎月の富山県内の鉱工業生産量から作成された数量指数で、富山県の鉱工業生産活動全体の水準をあらわします。一般に、景気の動向や転換点を判断するために用いられ、富山県の景気を判断する上でも重要な経済指標のひとつです。
図1で月別の生産指数(原指数)の推移をみてみると、各年の3月が高く、1月や8月が低くなっています。
図1 富山県 鉱工業生産指数(原指数)
しかし、単純に各年の3月は1月や8月よりも生産活動が好調であったと判断することはできません。なぜなら、各年の変動パターンは同じ動きを示しており、経験則により季節変動によるものだということがわかっているからです。このように、季節変動のある生産指数を分析しやすくするには、どのような方法があるのでしょうか。
まず、最も簡単な季節変動を除去した分析方法は、生産指数を前年同月で比較することです。つまり、昨年の3月と今年の3月は同じ季節ですから、生産指数でみても同じ季節要因をもっており、同じ季節要因をもった月同士での比較ならば、季節変動の影響を考慮しなくてもすむということです。
しかし、この方法では直近の生産指数との比較ができないという問題が残ります。そこで、1年を周期とする季節変動をあらかじめ取り除く季節調整が必要とされるのです。
季節調整をしてない原系列に対して季節調整をした時系列を季節調整済系列といい、指数についても、季節調整をしていない原指数に対して、季節調整をした指数を季節調整済指数といいます。
4.季節調整方法
それでは次に、季節調整はどのようにして行われるのか、その方法をみていきます。
(1)移動平均
移動平均とは平均をとる期間を徐々にずらしていく平均法のことで、季節調整法には欠かせない計算方法です。現在、季節調整法の中で主流となっているのは、移動平均型調整という手法で、この手法は移動平均によって原系列の規則的な変動をならす、という考え方に基づいています。それでは、具体的に移動平均を使ってどのような計算を行うのか、次の例をみていきましょう。
【例1】 3ヶ月移動平均
まず、移動平均の基礎的な計算方法を、3ヶ月移動平均で説明していきます。
表1の月別生産指数H15年〜H16年の時系列データ(原指数)で、1ヶ月ずつ期間をずらしながら、3ヶ月分のデータで平均をとります。そして、その値は平均をとった3ヶ月の中心月の値となります。
《3ケ月移動平均の計算例》
(1)H15年1月〜3月の平均値
=(1月+2月+3月)÷3
=(98.4+100.5+103.1)÷3=100.7→中心月であるH15年2月の値とする。
同様に、
(2)H15年2月〜4月の平均値
(100.5+103.1+103.1)÷3=102.2は、3月の値とする。
(3)H15年3月〜5月の平均値
(103.1+103.1+102.2)÷3=102.8は、4月の値とする。
(4)H15年4月〜6月の平均値
(103.1+102.2+105.5)÷3=103.6は、5月の値とする。
H15年5月〜7月の平均値は6月の値…(以下、表1)
表1
このように平均値を取り続けたものをグラフにしてみると、各月の変動がかなり均されていることがみてとれます(図2)。これを3ヶ月移動平均といいます。
図2 3ヶ月移動平均のグラフ
【例2】12ヶ月中心化移動平均
次に、中心化移動平均について12ヶ月中心化移動平均を用いて説明します。
【例1】の3ヶ月移動平均と同様に、移動平均を季節変動の除去のために用いる場合、12ヶ月移動平均をとっていきます。1年を周期とする季節変動は、1年分のデータを平均することで除去できると考えられるからです。
《12ケ月移動平均の計算例》
(4)H14年1月〜12月 (期間A)の平均値=98.6 (5)H14年2月〜H15年1月 (期間B)の平均値=99.7 (6)H14年3月〜H15年2月 (期間C)の平均値=100.7 (7)H14年4月〜H15年3月 (期間D)の平均値=101.4 …(以下、表2)
しかし、12ケ月移動平均では、12ヶ月という期間が偶数ヶ月のため、各月の指数として当てはめる中心月がありません(表3)。
↑クリックすると大きな画像を見る事が出来ます。
そこで、12ヶ月移動平均をとる場合は、隣り合わせの2時点分の12ヶ月移動平均を更に平均し、12ヶ月移動平均をとった2つの期間をあわせた13ヶ月の中心月の値とします。これを12ヶ月中心化移動平均といいます。(表4)
《中心化移動平均の計算例》
12ケ月移動平均の計算例(4)、(5)、(6)、(7)において中心化移動平均を行うと
(4)→平均をとった期間は、H14年1月〜12月(期間A)
(5)→平均をとった期間は、H14年2月〜H15年1月(期間B)あわせて13ヶ月 よって中心月はH14年7月
12ヶ月移動平均(4)と(5)の平均値は
(98.6+99.7)÷2=99.2 →これを中心月であるH14年7月の値とする。
同様に、
(5)と(6)の平均値は(99.7+100.7)÷2=100.2 →これをH14年8月の値とする。
(6)と(7)の平均値は(100.7+101.4)÷2=101.1 →これをH14年9月の値とする。
(以下、表4)
表4
↑クリックすると大きな画像を見る事が出来ます。
この12ヶ月中心化移動平均の考え方は、多くの経済統計で季節調整法のベースとなっており、富山県の鉱工業生産指数もまた、この考え方をベースに季節調整がなされています。
但し、中心化移動平均値そのものが、季節調整済指数として動向分析に使われているわけではありません。なぜなら、中心化移動平均は12ヶ月分のデータが揃わなくては計算が出来ず、時系列分析で最も重要である最新時点での動向分析に適していないからです。実際には、12ヶ月中心化移動平均法を用いてあらかじめ算出した指数(次の(2)季節指数 参照)によって、毎月の季節調整済指数が算出されています。
※正式に、現在富山県の生産指数に採用している季節調整法を説明すると、米国センサス局(統計局)で開発されたX−12−ARIMAという手法になります。1997年に12ヶ月中心化平均法を基礎として開発されたX-11という手法に、週休2日、祝祭日、うるう年調整を付加したより安定性の高い調整方法です。なお、経済産業省が毎月公表している鉱工業生産指数でも同じ手法を採用しています。
(2)季節指数
季節指数とは、毎月の公表に用いられる原指数を、季節調整済指数に調整するためにあらかじめ算出された指数のことです。季節指数は過去7年の原系列をもとに、12ヶ月中心化移動平均法を用いて算出され、新しい原系列が1年分出揃うごとに新しい季節指数を算出しなおしています。これは、より新しい傾向をも含んだ季節調整を行うためです。
なお、毎月の原指数を季節指数で除すことによって、季節調整済指数を算出しています。
原指数÷季節指数=季節調整済指数
季節調整済指数…… 季節調整済指数でみた前月比が最も注目され、原指数とともに実際の動向分析に用いられる。
4.おわりに
生産指数のような短期的動きに注目する統計では、前月や前期との比較が行える季節調整済指数が大変便利です。しかし、季節調整はあくまでも季節パターンが一定であるという仮定のもとに、規則に従い算出されたもので、特殊な変動をも加味したものではないということに注意しなければなりません。たとえば、ある年の傾向が例年の動きと異なった場合、季節調整済指数ではより大きく異なる結果となることも考えられます。季節調整は経済統計では欠かせない分析のためのひとつの手法ですが、規則に従った算出方法であることを理解し、利用者の目的によって原指数と季節調整済指数を使い分ける必要があるといえます。
参考文献
指数の作成と利用《第5版》(編集:経済産業省経済産業政策局調査統計部)
季節調整法の比較研究(編集:経済企画庁経済研究所)
経済指標のかんどころ《改訂22版》