経済指標の見方・使い方


所得格差を測る指標
−ジニ係数とローレンツ曲線−


富山大学経済学部教授 中村和之


1 はじめに

 今月は、ジニ係数とローレンツ曲線について解説します。ジニ係数やローレンツ曲線は、経済活動の成果である国全体の所得が各世帯にどのように分配されているのかを調べるときに、最もよく用いられる指標です。

 近年、人口構成の高齢化や雇用形態の変化、核家族化の進行などに伴い、世帯間の所得格差が増加しつつあることが報告されています。昨年6月、厚生労働省は、再分配を行なう前の所得(当初所得)の格差をジニ係数で測って、これが、調査開始以来、最も高い(所得格差が大きい)値を示していることを明らかにしました1)。また、京都大学の橘木教授はジニ係数の国際比較から、一般的な予想に反して日本の所得分配は国際的にみて必ずしも平等ではないことを指摘しています2)

 以下では、これらの分析で用いられているジニ係数やローレンツ曲線の意味と、これによって所得格差を測ることの経済学的な根拠についてお話しいたします。


2 ローレンツ曲線

 最初に、ローレンツ曲線について解説いたします。ローレンツ曲線とは、世帯を所得の低い順番に並べ、横軸に世帯の累積比をとり、縦軸に所得の累積比をとって、世帯間の所得分布をグラフ化したものです。もしも、社会に所得格差が存在せず、全ての世帯の所得が同額であるならば、ローレンツ曲線は45度線と一致します。所得や富の分布に偏りがある限り、ローレンツ曲線は下方に膨らんだ形になります。

 数値例で説明しましょう。数年前、『もしも世界が100人の村だったら』という本が話題になったことを御記憶の方も多いと思います。そこに以下のような記述がありました。

「すべての富のうち6人が59%をもっていて みんなアメリカ合衆国の人
です 74人が39%を 20人が、たったの2%を分けあっています」3)

 これによると、世界の人々のうち、保有する富でみた下位20%(20人)が世界全体の富の2%を持っているとされています。さらに、下から数えて94%(20人+74人)の人々が世界全体の富の41%(=2%+39%)を保有していることも分ります。この関係を図示すると、図1のような富の分布に関するローレンツ曲線を描くことができます。

図1 ローレンツ曲線
図1 ローレンツ曲線
資料:『世界がもし100人の村だったら』に基づき作成

 図1によって、世界における富の集中の程度を視覚的に把握できます。所得や富が特定の少数の人々に集中しているほど、ローレンツ曲線は下方に大きく膨らみます。
 わが国の所得データを用いてローレンツ曲線を描いてみましょう4)。表1は平成14年の家計調査から得た標準世帯(勤労者)の年間収入階級別五分位データです5)。五分位データとは所得の低い世帯から順に全世帯を5等分してグループ化したデータを指します。

表1 年間収入五分位階級別世帯数分布(勤労者・標準世帯)
表1 年間収入五分位階級別世帯数分布(勤労者・標準世帯)
資料:総務省統計局『家計調査年報 平成14年』第12表より作成。年間収入は平成13年の値。

 このデータをもとに、世帯の累積比と所得(年間収入)の累積比を求めると表2のようになります。表2の第1行をx(横軸)、第2行をy(縦軸)として散布図を描くと図2のようなローレンツ曲線を描くことができます。五分位データではなく十分位データを使えばもっと高い精度で描くことができます。

表2 世帯数累積比と所得累積比
表2 世帯数累積比と所得累積比
表1に基づき作成


図2 世帯のローレンツ曲線
図2 世帯のローレンツ曲線
資料:総務省統計局『家計調査年報 平成14年』に基づき作成


3 ジニ係数

 ローレンツ曲線によって図示される所得格差を「一言で表すと」どうなるのでしょうか。ジニ係数は、ローレンツ曲線の下方への膨らみ具合を、図3のように45度線とローレンツ曲線にはさまれた部分の面積と45度線の下の三角形の面積の比で表します。図3の黄色い三角形の面積は必ず1/2ですから、ジニ係数は弓形の部分を二倍した値になります。

図3 ローレンツ曲線とジニ係数
図3 ローレンツ曲線とジニ係数

 ジニ係数の値は0と1の間をとります。その定義から明らかなように、ジニ係数の値が0に近ければ所得格差が小さく、1に近いと所得格差は大きいと言えます。

 表1・2のデータをもとにジニ係数の値を計算してみましょう。少し面倒ですが、ローレンツ曲線と関連付けた計算方法を説明します。まず、ローレンツ曲線の下の部分の面積を、台形の面積の和として求めます。次に、この値を1/2から差し引くと弓形の部分の面積が求まります。最後に、この値を二倍するとジニ係数を得ることができます。表1・2の値に基づき、この手順を式で書くと以下のようになります。

ジニ係数

図2’ 世帯のローレンツ曲線
図2’ 世帯のローレンツ曲線
資料:総務省統計局『家計調査年報 平成14年』に基づき作成


4 ローレンツ曲線やジニ係数で所得格差を測ることの意味

 さて、ローレンツ曲線やジニ係数で所得の格差を測ることにはどのような経済学的な根拠があるのでしょうか。

 今、人々の生活水準(効用)が所得に依存するものとしましょう。例えばi さん一家の効用水準をUiと表し、その所得をyiと書くことにします6)。すると、効用が所得に依存して定まるという関係を、Ui=U(yi)、と書くことができます。さらに、所得と効用の関係が図4のような形で表されるものとします。すなわち、所得が増えると効用は上昇しますが、所得が二倍になっても効用の上昇は二倍未満にとどまるものとします7)

図4 所得と効用
図4 所得と効用

 社会全体の福祉の水準(経済厚生)をW と言う記号で表すことにして、これが人々の効用の和として表されるとしましょう。例えばN 世帯からなる社会全体の経済厚生を、
W =U(y)+U(y)+、…、+U(yN)、
と表すことにします。

 このとき、もしも平均所得が同じであるならば、ローレンツ曲線がより45度線に近い所得分布(但し、図5のようにふたつのローレンツ曲線が交差しない場合だけを考えます)の方が、必ず社会全体の経済厚生(W )は大きいことが証明できます8)。たとえば、平均所得が同じである図5のようなふたつのローレンツ曲線によって表される所得分布があると、ローレンツ曲線A で表される分布の方が、必ず経済厚生は大きくなります。

図5 ローレンツ曲線による経済厚生の比較
図5 ローレンツ曲線による経済厚生の比較

 ここで、個人の所得と効用の関係は、図4のような形であるという以外に何も特定していないことに注意して下さい。ローレンツ曲線の比較によって、私たちはごく緩やかな仮定(図4のような効用と所得の関係)の下で、社会の経済厚生について判断を下すことができるわけです。


5 いくつかの注意

 ジニ係数やローレンツ曲線は、所得格差を測るために簡便で有用な指標です。実際、多くの分析で、所得分布の国際比較や時系列比較に用いられています9)

 しかし、その利用には若干の注意が必要です。第一に、私たちが通常利用できるデータは家計調査のように集計されたデータですから、同じ所得階層の中に異なる属性を持った世帯が混在しています。世帯間の属性の相違をコントロールせずにローレンツ曲線やジニ係数を測ると、得られた結果にはみせかけの所得格差が含まれることに注意せねばなりません。

 第二に、ジニ係数の値だけから所得格差の実態がすべて明らかになるわけではありません。図6のように、ふたつのローレンツ曲線が交差している場合、ジニ係数の値だけからこのふたつの分布について優劣を下すことはできません。但し、このことは、所得分配の公平性を評価するには様々な考え方があることの反映でもあり、指標自体の欠点と言うわけではありません。

図6 ローレンツ曲線が交差する場合
図6 ローレンツ曲線が交差する場合

 第三に、社会全体の経済厚生は、所得の分配と共に、分配される所得の大きさにも依存します。たとえていえば、パイの分け方とパイの大きさの双方が、社会全体の厚生水準を決めます。平均所得は高いが格差の大きな社会と、格差は小さいが全体に貧しい社会のどちらが望ましいかについて、ローレンツ曲線やジニ係数だけから判断を下すことはできません。平均所得の違いを考慮してローレンツ曲線を描く方法もあり、この連載の後半部分で触れる機会があると思います。


6 おわりに

 今回は、ジニ係数とローレンツ曲線について解説しました。一定の留保条件があるものの、ジニ係数やローレンツ曲線が社会における所得分布を把握するために有用な指標であることがお解かりいただけたと思います。

 私たちは、経済活動の成果がどのように分配されているかと共に、これが政府によってどのように修正されているかについても大きな関心を持っています。政府は、社会において生ずる所得の分配が望ましくないと判断されるとき、税制や社会保障制度を通じてこれを修正します。このことを政府による所得再分配と言います。

 次回は、政府による所得再分配政策の大きさを表す指標について解説いたします。

注)
1). 厚生労働省(2004)、『平成14年 所得再分配調査報告書』、
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/06/h0625-3.html)をご参照下さい。
2). 橘木俊詔(1998)、『日本の経済格差−所得と資産から考える−』、岩波新書。
3). 池田香代子再話 C.ダグラス・ラミス対訳(2001)、『世界がもし100人の村だったら』、マガジンハウス。
4). 総務省統計局、『家計調査年報 平成14年』、(http://www.stat.go.jp/data/kakei/2002np/02nh.htm)第12表より。
5). 標準世帯とは、夫婦と子供二人で構成される世帯のうち、有業者が世帯主1人だけの世帯を言います。勤労者世帯とは、世帯主が会社、官公庁、学校、工場、商店などに勤めている世帯を言います。このように対象とする世帯を限定しているので、ここでの結果がわが国の所得格差そのものを表すわけではありません。
6). もちろん、所得が同じであってもそこから得られる効用は人によって異なるかもしれません。しかし、ここでは全ての人について、所得が同じであれば効用も同じであるとします。また、そもそもある人の効用を他の人の効用と比較することや、個人の効用を合計して社会全体の厚生を測定することが可能か、という根源的な問題もあります。但し、所得の分配を評価しようとすればこのような作業が不可欠になります。
7). 正確には、効用は所得に関する凹関数であるという性質です。
8). 証明に興味のある方は、Lambert,P.J.(2001)。 The Distribution and Redistribution of Income. Manchester University Press、の第3章を御覧下さい。
9). 例えば、総務省統計局(http://www.stat.go.jp/data/zensho/topics/1999-1.htm)では全国消費実態調査の結果をもとに日本の所得格差を分析しています。また、本誌2001年11月号(浜松誠二「2割の人が9割の所得−世界の所得の平準度の試算−」http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/back/2001nov/tokushu/index.html)では、詳細なデータに基づいた所得分布の地域間比較、国際比較がなされています。

とやま経済月報
平成17年4月号 240367