経済指標の見方・使い方


比較優位と貿易利益

富山大学経済学部教授 垣田直樹


はじめに

 今月は、比較優位に基づいた貿易が国に利益をもたらすしくみについてわかりやすく解説します。国が貿易をする際、何を輸出し何を輸入するのかという貿易構造が絶対的な生産技術の国際間格差に依存するのでなく、相対的な生産技術格差に依存することがわかります。国は生産が得意な財を輸出しますが、得意であることを何で判断するかがポイントとなります。


絶対優位

 いま、世界は自国と外国の2国で構成されており、唯一の生産要素である労働を用いて、工業品と農産品の2種類の財がそれぞれ工業部門と農業部門で生産されているとします。両国で各財を1単位生産するために必要な労働量(労働投入係数)を表1のように想定します。自国では工業品を1単位生産するには4単位の労働を必要としますが、労働投入量の規模を2倍の8単位にすると生産量も2倍の2単位になります。このように投入規模を拡大した際、同じ比率で生産が増加することを、規模に関して収穫一定といいます。農産品についても、外国においても同様です。

表1 労働投入係数
表1 労働投入係数

 表1から、どちらの国が財を生産する上で優位性を持っていると判断できるでしょうか。財を1単位生産するために投じられる労働量が少ないほど生産は効率的であり生産技術が優れていると考えてみましょう。工業品については、自国は1単位生産するのに4単位の労働投入量が必要ですが、外国は3単位で済みますので、生産技術は外国の方が優れています。同様に農産品については、自国は1単位生産するのに8単位の労働投入量が必要ですが、外国は1単位で済みますので、やはり生産技術は外国の方が優れています。つまり、外国は両財の生産に絶対優位(絶対的な優位性)を持っています。逆に、自国は両財の生産に絶対劣位(絶対的な劣位性)を持っています。直感的には、両財について絶対優位を持っている外国は、自国から財を輸入する必要はないように思えます。


比較優位

 生産の優位性を、労働投入係数そのものの比較で判断するのではなく、各財の生産が互いに労働で結びついていることに着目して、相対的にとらえるのが比較優位の考え方です。労働の存在量は各国において限られていますので、どちらの国においても、存在する全ての労働が生産に用いられているならば、ある財の生産を増やすためには他の財の生産を減らさなければなりません。そこで、機会費用(ある財1単位の生産を増やすときに犠牲となる他の財の量)を比べることによって生産の効率性の優劣を判断することにしましょう。

 表1の例では、自国は工業品の生産を1単位増やすには4単位の労働が必要ですから、農産品の生産を1/2単位減らす必要があります。一方、外国では工業品の生産を1単位増やすには3単位の労働が必要ですから、農産品の生産を3単位減らす必要があります。つまり、工業品の機会費用は自国の方が小さいので、工業品の生産は相対的には自国の方が効率的であると考えられます。同様に、農産品の機会費用(工業品の機会費用の逆数)は外国の方が小さいので、農産品の生産は相対的には外国の方が効率的であると考えられます。従って、自国は工業品の生産に比較優位(相対的な優位性)を持ち、農産品の生産に比較劣位(相対的な劣位性)を持っています。一方、外国は農産品の生産に比較優位を持ち、工業品の生産に比較劣位を持っています。

 このように、生産する上での優位性は機会費用を用いて考察しましたが、表1から表2の労働生産性に変更して考えてみましょう。労働生産性は労働1単位によって生産される量で測ります。

表2 労働生産性
表2 労働生産性

 自国では工業品の労働生産性は農産品の労働生産性の2倍ですが、外国では1/3倍です。農産品の労働生産性を基準にすると、工業品の相対的な労働生産性は自国の方が高いことがわかります。よって、自国は工業品に比較優位を持ち、同様に外国は農産品に比較優位を持つと考えることができます。
 各財について両国の労働生産性を比較するとどうでしょうか。外国は農産品の労働生産性は自国に比べ8倍高いですが、工業品では4/3倍しか高くありません。すなわち、自国の労働生産性を基準にすると、外国は工業品よりも農産品の方が相対的に労働生産性は高いので、農産品に比較優位を持ちます。一方、自国は外国に対して農産品での労働生産性の低さほど工業品の労働生産性は低くないので、工業品に比較優位を持つといえます。


特化と貿易利益

 比較優位の考え方から、各国には比較優位を持つ財が存在することがわかりました。そこで、図1のような実験をしてみましょう。貿易がなく、各国において消費量=生産量となっている自給自足の状態から、各国は比較優位を持つ財の生産が拡大するように労働配分を変更します。

図1 労働配分の変更
図1 労働配分の変更

 自国は8単位の労働を農業部門から工業部門に移動し、外国は3単位の労働を工業部門から農業部門に移動します。すると、自国では工業品の生産は2単位増加し農産品の生産は1単位減少します。一方、外国では工業品の生産は1単位減少し農産品の生産は3単位増加します。従って、世界全体では工業品の生産は1単位増加し農産品の生産は2単位増加します。

 さらに、自国は1単位の工業品を外国に輸出し、外国は自国に1単位の農産品を輸出します。貿易をしているときは、消費量=生産量+輸出量、および消費量=生産量−輸出量になることを考慮すると、自給自足の状態と比べて、自国では農産品の消費量を変えることなく工業品1単位の消費が増加し、外国では工業品の消費量を変えることなく農産品2単位の消費が増加します。このように貿易は両国に利益をもたらします。

 この例では、自国は8単位の労働だけを、外国は3単位の労働だけを部門間で比較優位財に移動させましたが、両国ともに存在する労働を比較優位財の生産に配分し、特化することによって世界全体でより多くの財を生産し、貿易によってより多くの財を消費することが可能になります。


交易条件

 貿易利益と交易条件の関係について考察しましょう。交易条件とは輸出財1単位と交換される輸入財の量のことで、自国の交易条件の逆数が外国の交易条件になります。

 さて、自国では比較優位財である工業品の生産を1単位増加するには農産品の生産を1/2単位減少させなければならないので、工業品1単位の輸出に対し農産品の輸入が1/2単位より多いほど自国にとって貿易利益は大きくなります。一方、外国では比較優位財である農産品の生産を1単位増加するには工業品の生産を1/3単位減少させなければならないので、農産品1単位の輸出に対し工業品の輸入が1/3単位より多いほど外国にとって貿易利益は大きくなります。外国について言い換えると、外国にとって工業品1単位の輸入に対し農産品の輸出が3単位より少ないほど貿易利益は大きくなります。よって、両国が貿易利益を得る自国の交易条件は、自国の工業品の機会費用である1/2から外国の工業品の機会費用である3の範囲であることが分かります。

 この交易条件がどの値になるかは世界の財に対する需要に大きく依存します。工業品に対する需要が強ければ工業品の価値は高くなり工業品1単位と交換される農産品は多くなるので、自国の交易条件は高くなり貿易利益は自国に偏ります。逆に、農産品に対する需要が強ければ農産品の価値は高くなり工業品1単位と交換される農産品は少なくなるので、自国の交易条件は低くなり(外国の交易条件は高くなり)貿易利益は外国に偏ります。

 しかしながら、重要なのは比較優位に基づく貿易が両国に利益をもたらすことであり、その点をもう一度考えてみましょう。先ほどの例にありましたように、自国は1単位の工業品を外国に輸出し、外国は自国に1単位の農産品を輸出するとします。つまり、自国は4単位の労働で工業品を1単位生産し、農産品を1単位手に入れることができます。これは、自国は農産品を生産する過程に貿易を組み込んで、自ら生産すれば8単位の労働投入がかかるところを、その半分の労働投入で1単位の農産品を生産していることを意味しています。同様に、外国も1単位の労働で農産品を1単位生産し、工業品を1単位手に入れることができます。これは、外国は工業品を生産する過程に貿易を組み込んで、自ら生産すれば3単位の労働投入がかかるところを、その1/3の労働投入で1単位工業品を生産していることを意味しています。


おわりに

 各国が特化すべき財が何になるのかは比較優位によって決定されます。絶対的な生産技術の格差は国際分業の決定因とはなりません。つまり、技術力のある先進国でも技術力のない発展途上国でも生産が「得意」な財が存在します。そして、各国が比較優位財の生産に特化することは、世界全体の観点から望ましい資源配分だといえます。

 貿易の利点は輸入にあります。国は生産が不得意な財を輸入するために生産が得意な財を輸出しているのであり、それは自らが生産するよりは効率的であるということです。貿易は限りある資源を効率的に利用するためのとても便利な仕組みといえます。従って、企業は世界市場でライバル企業と競争していますので、国際競争力が重要になりますが、この「企業」を「国」に置き換えて論じるのは無意味であることを比較優位の考え方は示唆しています。

<参考文献>
Ethier, W. J., Modern International Economics, Second Edition, Norton, 1988.

Krugman, P. R. and M. Obsfeld, International Economics: Theory and Policy, Third Edition, HarperCollins College Publishers, 1994.

とやま経済月報
平成16年10月号 66956