オンリーワンの先進国イタリア

ジェトロ富山所長 温井邦彦


したたかに生きる国

 イタリアと日本は共通点が多い。資源小国、貿易立国、中小企業の国。欧州のなかではドイツ、フランスのような強国の谷間で常に三番手、四番手に甘んじているが、したたかに生き抜き、先進七カ国の一角をちゃんと守っている。また、陽気で、遊ぶために働くという信念をもつイタリア人のライフスタイルは日本人にとってはあこがれである。最近はいろんなところでイタリアの中小企業を見習えと言う声が聞かれる。ある時は反面教師としてある時は先輩として、イタリアは何かと気になる国なのだ。


「ニッチ」「工芸」に特化するイタリアの中小企業

 早速本論に入るが、イタリア人は中小企業を呼ぶとき Small and Medium Industry でなく職人、手工芸と言う意味のアルティジャナート Artigianato という言葉を好んで使う。特色あるアパレル、ニット製品、しゃれた革のバック、色、デザインがすばらしいイタリアン家具等々..職人が作り上げた製品。機械製品で言うと大企業が手を出さない多品種少量のニッチな機器を生産するのがイタリアの中小企業である。アルティジャナートという言葉の意味はこれらの製品を思い浮かべるとなるほどと理解できる。イタリアの199箇所ある産地の内訳は繊維35%、皮革27.3%、家具20%、機械16.1%である(小川秀樹「イタリアの中小企業」)。これも納得である。
 フィレンツェ、ボローニャ、ベニスに囲まれた新興工業地域を「第三のイタリア」というがそこには Small is Beautiful を謳歌するかのようにニッチ産業が集積している。繊維・皮革製品から食品・包装機械など。イタリア企業は付加価値を高めることも忘れてはいない。アドリア海に近いアンコーナ市近郊にある家電メーカーのメルローニ社はデザインで生き残る道を見出した。イタリアの家電製品は決して高級ブランドではなかった。同社は Ariston と Indesit という二つのブランドを持つ。 Ariston ブランドは蓮池槇朗氏、Indesit は自動車デザインで有名なジュージャーロ氏にデザインを依頼する。富山県にゆかりの世界的デザイナー、蓮池槇朗氏との付き合いは、まだ同社がコンロ・オーブンを主製品としていた1968年にさかのぼる。同社は今や従業員2,000人を数えるまでに成長した。



Aristonの冷蔵庫

活力の秘密

 イタリアの中小企業の成功の要因は一言でいってしまえば、産地内の専門的水平分業によってコストダウンを成し遂げ、規模は追わず、もっぱら付加価値を高めることに腐心したと要約できまいか。詳しいところは専門家のレポートが数多く出ているのでそちらをお読みいただくとして、ここでは イタリア中小企業の成功の裏の苦労話を紹介したい。デザインとかニッチ商品などといっているがそんなに甘いものではないのだ。



頼りにならない政府

 イタリアの政権は皆さんもご記憶にあろうが90年代初めまで短命政権で平均一年くらいでころころ代わっていた。アンドレオッティは7回も首相を経験している。こんな安定しない政権では信頼が置けず、産業政策はイタリアにはないとまで酷評されたものだ。経済も90年代まで多数の国営企業が産業の基幹を占めた混合経済で、大企業と言えば競争力のない国営企業とFIATとかオリベッティとか数少ない民間企業のみであった。寄らば大樹というが寄るものがなく独力でがんばるしかなかったと言える。



デザイン学科の歴史は浅い

 国立ミラノ工科大学と言えば著名な建築家、デザイナーを多数輩出している一流大学である。そこのデザイン学科は数年前にできたところで、イタリアはデザイナーの養成教育機関が充実しているような印象があるが、それは事実でない。しかも、面白いのはデザイン学科が属する建築学部長の考え方で、1学年450人程度が在籍し4年全体では2,000人近くにもなってしまうわけだが、そのなかで成功する人はごく一握りの人たちであっても競争させてこそいいものができる、そのぐらいがちょうどいいとの判断である。少数精鋭のエリート教育なんて論外、これもイタリア流なのだろう。 



猛スピードで進む改革

 イタリアは92年の欧州市場統合を境に国営企業の民営化、労働関係法の改正などEUスタンダード化が驚くほどの速さで進んでいる。イタリア国鉄、高速道路、電力公社、アリタリア航空などの民営化の達成も近い。労働問題では経営に重くのしかかっていた賃金の物価スライド制が92年に廃止され、派遣労働も97年に合法化された。労働憲章で15人以上の従業員を持つ企業は原則解雇できなかったがそれをできるよう改正調整中である。イタリアの中小企業で15人以下の企業が多いのはこの理由が大きい。やらなければ取り残されるという切迫感が政府を駆り立てている。



イタリア企業のハングリー精神

 こういう風に見ていくとイタリア企業のハングリーさは、必ずしも恵れているとはいえない環境のなかで自分でやるしかないという危機感から湧出していると思われる。現在の日本の中小企業を取り巻く環境も厳しい状況が続いており、企業の踏ん張りの源であるハングリーさがイタリアのように蓄積してきているのではないだろうか。イタリアの中小企業を表すキーワードとして、三つのF  Flessibilita`(柔軟性)、Fantasia(美しさ)、Fiducia(自信)(小川秀樹「イタリアの中小企業」)があげられる。最後の Fiducia という言葉には厳しい環境の中でも夢をもって取り組み、自社の製品に自信を持とうということだと思う。



日本らしさの再認識 

 イタリアの製品、デザインを見ていると確かに独創性、アイデアはすばらしいと感じる。と同時にこのDNAは一朝一夕にまねできるものではないとも感じる。カリフォルニアの日系半導体メーカーを訪ねたときである。半導体の開発設計は日本人とアメリカ人をペアにして任せている。アメリカ人の独創的なアイデアを日本人のパートナーが完成させるというのだ。そこの社長はこの仕組みは非常にうまくいっているとおっしゃっていた。10数年前のイタリアの話。ミラノの著名デザイナー事務所の番頭さんは日本人というのがミラノの日本人デザイン関係者の間では常識のように言われていた。この話も同じように仕上げは日本人ということである。日本人に独創性がないと言っているわけではないが得意分野はそれぞれ違うということである。



最後は総合力

 グローバル化のなかで各国の連携は深まり、それぞれが持つ優位性の差というものは縮まっている。専門的水平分業が進むイタリアの産地では生産から販売までネットワーク化が進み、いい商品を作り出すため、情報交換が密におこなわれ、業者間の中に入る調整役も大きな役割を演じている。石川県を訪れたイタリアの識者はただ作るだけに専念する機屋さんを見て、驚いたと言う。イタリアの産地は持てる力全てを有効に発揮しているということができる。



イタリアデザインとの融合の試み

 最後に富山県総合デザインセンターとジェトロが行っている富山県のモノ作り技術とイタリアデザインを融合した新製品の開発プロジェクトを紹介する。2002年から開始し、まだ緒についたばかりの事業で、ミラノのデザイナーに提案してもらった企画を県内企業が製品化するというもの。デザインする側と生産する側のなかに誰かが入り、コーディネートすればこんなにいい製品ができるという例である。販売はこれからであるが、こういう総合的にコーディネートする力が求められている。



完成間近のイタリア人デザイナーとの共同開発製品
とやま経済月報
平成16年3月号 22154