特集

地域振興に資する芸術文化系研究教育拠点の
あり方に関する一考察


高岡短期大学地域ビジネス学科 教授 吉田俊六


1.「心の豊かさ」を追求する時代

 景気回復の兆しがホンモノかどうかが話題になり始めた昨今、景気の良し悪しに関わらず、過去20年間、日本人が一貫して求めてきたのは「心の豊かさ」であった。
 筆者が、研究対象としている生活価値観の研究の成果として、日本人が集団志向から個人志向へと変わってきていること、個人としての生きがいを求めてきていることがいえる。((財)生命保険文化センター調査:1976年、1985年、1991年、1996年、2001年)この傾向は都市規模別の比較では大都市ほど個人志向が強い事実があるが、地域性以上にジェネレーション格差が大きい。すなわち、校下自治会の結束の強さ、老人クラブ加入率全国一の凝集力を誇る富山県であっても、若者の個人志向は時代の流れと同調している。携帯電話の保有、車の保有の状況などが個人志向に拍車を掛けていると考えられる。
 また、ミシガン大学のR. イングルハートが主催する世界価値観比較調査の分析結果より、数十カ国に共通する社会の発展と価値観の変化の流れが発見された。豊かな経済力や自由な制度を獲得するにつれて、宗教的な束縛から脱出し、合理的な、個人の自由を尊重する価値観が選択されるようになる傾向が判明している。(the WVS:1985年、1990年、1995年、2000年 http://wvs.isr.umich.edu/ )イングルハートが近代化・ポスト近代化の象徴的表現として発見した「物質主義者、脱物質主義者」の分類は世界的に有名であるが、実は、わが国では彼の研究が始まる前から、世論調査の質問項目として「心の豊かさか、物の豊かさか」を問うものがあり、内容的に重なり合う部分がある。内閣府の「国民生活に関する世論調査」での質問結果、主要な耐久消費財が普及した1970年代(昭和50年代)前半において、今後重視したい生活のあり方について(「心の豊かさ重視か、物の豊かさ重視か」は拮抗していた。しかし、その後、「心の豊かさ」を求めるとする回答率が増加して現在に至っている。)
 平成14年度調査結果の報告書より、部分引用すると以下の通りである。今後の生活の仕方として、心の豊かさか、物の豊かさかについて聞いたところ、「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」(以下、「心の豊かさ」という。)と答えた者の割合が60.7%、「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」(以下、「物の豊かさ」という。)と答えた者の割合が27.4%となっている。なお、「どちらともいえない」と答えた者の割合が10.1%となっている。

図1 心の豊かさ・物の豊かさ
図1 心の豊かさ・物の豊かさ
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(注)心の豊かさ→ 「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」
物の豊かさ→ 「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」
資料:内閣府「国民生活に関する世論調査」(平成14年6月)

 この時系列調査結果から、筆者が注目しているのは、そのニーズを満たすために、全国共通に芸術や文化の活動に参加し、受容・理解する段階、さらに、製作・創造する行為まで高める機会を増やしていくのはいかがなものであろうかということである。ちなみに、国際的に比較すると「心の充実」を宗教への帰依に求める国・文化は多い。日本は儒教・佛教・神道の混交した文化圏であると外部から見られているようである。また、日本人一般には日常的にはあまり強く「宗教」を意識していないとみなされる傾向があるが、富山県では相対的に宗教心が強い人が多い可能性がある。歴史的に四国と並んで仏教王国とみなされている上に、各家に大きな仏壇と仏間があり、この分が他の県よりも大きいために住宅面積日本一になっているとのうがった見方もある。すなわち、形の上からも北陸文化圏は宗教心が日本人一般よりは強い可能性があると想定する。これは「心の豊かさ」を充足させる基本要件がある程度満たされている可能性があることでもある。
 富山県を中心とする北陸文化圏に関して改めて見直すまでもなく、県民が生まれ育った集落や地域には脈々と継承され続けてきた様々な伝統芸能があり、文化的素養をお持ちであるから、これらをさらに向上することもふくめて多面的に「心の豊かさ」を追求する機会を選択できる仕組みとこれを選び楽しもうとする気風が醸成されてくると際立つ存在になっていくと想定される。大きく捉え、人文科学分野や芸術文化の領域が潜在的に求められているのであれば「真に求められる」状態へと顕在化させていくための仕組みづくりの拠点として、人文系や芸術文化系の高等教育機関の経営資源を活用し、地域への貢献を促進させるシナリオも考えられるであろう。
 従来どおり、「経済力」を高めていくのは芸術文化を享受するための資金源でもあり大前提となるが、さらに富山の生活を魅力的なものとするために、「心の豊かさ」を具体的に実現させる作戦を考えてみたいものである。縄文弥生の遺跡までさかのぼらずとも、万葉の文化からの歴史的な蓄積を含めて、文化施設の活用や、日常生活での伝統文化継承やお稽古事も含めての芸術活動に参加し、享受するなど文化的資源の活用により「文化力」とでも呼ぶべきパワーを涵養し、「経済力」との相乗効果により、いっそうの充実した生活となり知情意のバランスのとれた地域振興が想定されてくる。


2.芸術文化の振興は世界的に求められている潮流

 少し過去にさかのぼって、アートが現代において需要されてきている流れについて捉えておこう。未来研究者、ジョン・ネイスビッツの著した『メガトレンド』1982年は評論家竹村健一の名訳で話題を呼び、「工業社会から情報社会へ」“ハイテク・ハイタッチ”、「中央集権から地方分権へ」「地球的に考え、地方的に行動する時代“グローカル:Think global, act local”」、「全員参加の草の根民主主義」等のキャッチが時宜を得た表現として受容されていた。続編の『メガトレンド2000』1990年は90年代の変化潮流、ひいては21世紀に向けての未来を洞察しようとした。ここで示された10のメガトレンドは(1)「90年代のグローバルな経済発展」(2)「芸術のルネッサンス」(3)「市場経済を導入した社会主義国の急成長」(4)「世界共通のライフスタイルの台頭と(これに刺激されての)文化的なナショナリズム」(5)「福祉分野の企業化」(6)「太平洋を囲む経済圏の勃興」(7)「女性のリーダーシップさらに増強」(8)「バイオの時代」(9)「新たなミレニアムと宗教の復活」そして(10)「個人の勝利」等となっている。この中で、「芸術のルネッサンス」(『メガチャレンジ』1998年では「芸術と文化の新たなルネサンス」と記述)を2番目に取り上げていたのが記憶に残っている。おりしも日本ではバブル景気の中で世界を相手にオークションでゴッホのひまわりに代表される美術品を競り落としてくるという社会現象も起きていたが、先進諸国で共通に起きていた現象として、アート分野への参加者の増加などがバロメータとして示されていた。例えば、米国での美術館の来館者数は1965年(2億人)が1989年(5億人)、オペラの聴衆は1970年と比較して1989年には3倍になったとしている。(ちなみに、アメリカンオペラの研究者の話によると、最近(2002年)ではミュージカルよりもオペラのマーケットが上回る状況とのことである。この全米的なオペラ普及活動に、経営管理学的な方法をアート分野に適用したアーツ・マネジメント研究・実践が大きな役割を果たしているとされている)同書の中で、1960年から1989年の間に日本では新たに200以上の美術館が建設され、西ドイツでもこの10年間で300近くの美術館が建てられたとしている。工業化し、成長を成し遂げた段階で「心」の潤いを求める世界的な潮流が高まったとの分析は説得力がある。わが国では、ハコモノに投資すると周辺産業へと波及効果をもたらすという経済成長の方程式が信奉され続けていた時期でもあり、建物などハードが先行し、ソフトやマネジメントは先送りの課題とされてきたとの見方が一般的であり、今回、地方において既存の文化的な用途のために建設されたハードをさらに一層活用し、マネジメントの効用を追求しようとする課題にようやく取り組む時期が到来したと捉えられる。

図2 わが国における芸術文化施設の年代別設置数の推移(暦年)
図2 わが国における芸術文化施設の年代別設置数の推移(暦年)
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出典:財団法人地域創造「地域の公立文化施設に関する調査」(平成13年)

 ネイスビッツが「芸術と文化の新たなルネサンス」が始まっていると解釈する理由は以下の3点に集約された。(J. ネイスビッツ著、ウダレイ訳「メガチャレンジ」21世紀へのコンパス、平成10年、たちばな出版、p236-237 より引用)
 (1)「文化的アイデンティティの模索:人々が固有のアイデンティティを形づけようとし、あるいはそれを固めようとするとき、芸術や文学は文化の象徴的な言語として、大いに活用される道具となる。その上、芸術家は文化、経済、政治の舞台で繰り広げられるさまざまな事象から、インスピレーションを得て、それを作品に盛り込む」(2)「技術進歩への反動:すなわち、ハイテクになればなるほど、ハイタッチ:人間的な要素、有機的で柔らかくて芸術的な表現形式を人々は求める」さらに、(3)「世界の変化のスピード:大変動の時期には、芸術の対象となるものはふんだんに出てくるものだ。人生の深い意味や世界の成り立ちといった深遠な問いに取り組んでいる時に、文学や芸術が花開くのは不思議ではない。今日の世界では、目のあたりにしている変化を正確に把握したり、言い表したりする表現がなかなか見つからない。こういうときには、直感的で包括的なアプローチを持つ芸術の世界が、しばしば最高の表現形式となる。」
 上記のように、ネイスビッツの視点は刺激的である。とりわけ、芸術院賞や文化勲章に象徴される芸術や文化の分野には門外漢であると自覚している人間にとって、身近なエンタテイメントやアニメーションなども含めて幅広く現代の生活に関わるものとしての捉え方は新鮮に感じられる。米国の文化行政は、芸術や文化の領域に関しても原則として市場メカニズムに委ねており、直接支援するよりも、芸術と文化のビジネス活動への税の減免などで対応している。これに対してヨーロッパでは、国がパトロンのように支援する制度が続いており、わが国でもヨーロッパに近い考え方で中央・地方合わせて、行政が文化振興に直接関わっており、日欧米の違いが明確である。最近になってEU拡大化の流れともあいまって、フランスのアート関係も独立法人化し、市場メカニズムから超越した存在ではなく、自助努力の道を歩み始めるようである。日本も将来的には国民ひとりひとりが自発的に芸術文化に親しむ素地が醸成されるようになると、芸術と文化をビジネス活動として捉えられるようになり、マネジメントの効用が高まってくると筆者は期待している。しかし、現実には平成15年に実施された「文化に関する世論調査」の結果に見られるような状態である。

 実演芸能や展覧会等に関しての参加の度合いや関心は、市場メカニズムに委ねたままで成り立つにはまだ低い状態と見られる。調査結果の報告によると、
<ホール等で直接鑑賞しなかった理由>
 この1年間に、プロの公演や作品をホール、会館、劇場、映画館、美術館・博物館などで直接、「鑑賞したものはない」と答えた者(1,022人)に、鑑賞しなかった理由は何か聞いたところ、「時間がなかなかとれないから」を挙げた者の割合が47.1%と最も高く、以下、「あまり関心がないから」(39.5%)、「近くで公演や展覧会などをやっていないから」(13.0%)、「入場料・交通費など費用がかかり過ぎるから」(8.8%)などの順となっている。(複数回答、上位4項目)

図3 ホール等で直接鑑賞しなかった理由
(「観賞したものはない」と答えた者に、複数回答)
図3 ホール等で直接鑑賞しなかった理由
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※ グラフ中の「※」については、調査をしていない項目
資料:内閣府「文化に関する世論調査」(平成15年11月)

 さらに進めて、文化とまちづくりについて、現状を推し量る材料として以下の結果がある。
<文化が息づくまちづくりのための要望>
 地域に根ざした独自の個性的な文化を生かして、文化が息づくまちづくりを進めていこうとした場合、国や地方公共団体はどのようなことをすればよいと思うか聞いたところ、「地域の芸術文化団体・サークルの育成や援助を行う」を挙げた者の割合が32.4%、「歴史的な建物や遺跡などを活かしたまちづくりを行う」を挙げた者の割合が30.9%と高く、以下、「文化フェスティバルなどの文化行事を開催する」(27.3%)、「まちのデザインや公共施設の整備に芸術的な感性を取り入れる」(25.1%)などの順となっている。なお、「特にない」と答えた者の割合が11.4%となっている。(複数回答、上位4項目)

図4 文化が息づくまちづくりのための要望
(複数回答)
図4 文化が息づくまちづくりのための要望
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※ グラフ中の「※」については、調査をしていない項目
資料:内閣府「文化に関する世論調査」(平成15年11月)

 一方、わが国の芸術文化振興の必要性について、文化庁のホームページを検索すると、以下のような例がある。「あるがままの実態と、行政の推進しようとする方向・水準とのギャップにこそ、私たちが今後さらに時間と労力を注入し、知恵とマネジメント能力を養い、専門性を持つ人材の養成に取り組むことで長期的かつ戦略的に地域振興の柱として育てていく必要があると考えられます。」(文化庁ホームページより引用)

<地域における文化の振興>
 近年、心の豊かさを求める国民の意識が高まるなか、人生に愉しみと潤いをもたらすものとして、文化に対する関心がますます高まっています。こうした機運を背景として、文化庁では、優れた芸術文化に身近に接することができ、地域に根づいた芸術文化活動が活発に行われるようにするため、個性豊かな芸術文化の振興、文化の国際交流の促進、文化を支える人材の育成など、地域における芸術文化の振興、蓄積や発信を促進しています。
 さらに、文化は豊かな人間性を育むものであるとともに、人と人との心のつながりや相互に理解し、尊重しあう土壌を提供するものであることから、地域や学校教育の場において、子どもたちが優れた芸術文化や伝統文化に接し、文化活動に参加できるような機会を拡充します。(文化庁ホームページより引用)


3. 地域振興に資する芸術文化要素とは何か?
新たなヒントを探る

 「心の豊かさ」を実感させる事業開発について私見を述べたく思う。富山に住み続けている方々に、今以上に文化を普及しようなどと申し上げるのは僭越だと思う。つい先日まで、夜風に乗って聞こえてくる集落ごとの獅子舞の神楽の練習の音、これ一つだけでも全国的にみて、伝統芸能が根付き伝承されてきた地域はざらにはないと思う。ここ数年、6月19日には決まって高岡市金屋町の「御印祭」に200人以上の学生諸君と参加させていただき、一部の学生は「やがえふ」の踊りにも参加を許される。高岡市旧市街の「御車山祭」はさらに規模の大きい400年の歴史を持つお祭りであり、これらが町民の神事、文化行事として継承され、生活と一体化していることに敬服する。全国的に民謡も踊りも知られるようになった八尾町のおわらは9月の1・2・3の三日間で延べ20万人の訪問者となり、旧市街が膨れ上がる状態になる。前夜祭に訪れる方々まで数えるとかなりの入れ込み数に上ると想定される。また、日本国内からの訪問者で大変な思いをされている八尾に海外からの来訪者まで見えたら、お困りであろうとも拝察する。「自分達のための行事であり、静かに見守ってくれるなら来ることを拒みはしません」との迎合しない姿勢は貴重なものである。全国各地で暮らしている八尾出身の方々も、この時期にはなにがなんでも帰郷し、この行事に参加するようであり、幼児から長老まで、おわら抜きの生活は考えられない域に達しておられるように見える。これらの、文化事業に共通しているのはそれぞれの土地に根付いた産業との結びつきが強く、その産業で生活を営めていることへの感謝や継続を願っての祭りではないだろうか。おわらを観光とどのように結びつけるかについて、多くの論議が交わされてきているし、今後も重要な検討課題であろう。昨年、新たなコンセプトによる、観光立国行動計画〜「住んでよし、訪れてよしの国づくり」戦略行動計画〜、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko2/kettei/030731/keikaku.pdf など提示されたが、筆者は本当に良いことは遅すぎることはないと受け止めている。これが、今後の富山県民にとって本当により良い生活をもたらすものかどうかを検討したいものである。ところで、産業構造の変化に伴い、農林水産漁業の産業は後継者が不足し、将来に大きな課題を抱えている。(平成13年度の富山県内1次産業のGDPシェアが全国平均を下回っていることに気づき、学生諸君ともども強い衝撃を受けた。それでも、農業を継ぐべき立場にある若者がサービス業に就きたいと主張することから、問題は深刻かつ容易に解決はできそうにない。)産業に根ざした文化行事だからこそ、根が途絶えたら魂を失うおそれがある。
 一方、食生活の安心・安全が急激に社会的な問題として顕在化している。筆者は「氷見市・長坂の棚田オーナー」3年生として、また、NPO「未来観光戦略会議」の一員として、未来観光の商品開発の伏線としての意味も持たせて「不起耕栽培で“のと”に“トキ”を(佐渡で一部実験を始めているように、動植物の生態系を安全安心モードに切り替えましょう)」などと研究課題を提案し始めたところである。なによりも、種籾供給シェア全国最大級の富山の地で、日本を救うための安全性の高い生産から豊かな文化行事(新たな、第三次産業の開発を含む)、県民アイデンティティと新たな誇りまでひっくるめての21世紀モデルを検討し、開発することが求められ始めたと捉えている。筆者は課題に取り組むためには、この土地に根ざした産業を大切にし、持続可能な発展を求めることが大前提と考えている。したがってキーワードは「伝統のポスト・モダナイゼーション」モデルの探求であるとの仮説を提案しておきたい。


備考:文化資源を活用するための方法論・マネジメントのあり方

 文化資源を活用するための作戦を考えるために、資本主義の国々で考えられたのは、この芸術・文化の領域に経営学の管理手法を導入しようとする試みであった。1960年代頃に米国の財団が文化・芸術団体に寄付金などを交付し、その効用や成果を団体に求めても“どんぶり勘定”的な水準の報告にとどまることが多く、大企業の基金部門などの合意を獲得し難かった。そこで、経営改善の機運が高まり、大学がここに知恵の提供と人材の育成の機能を果たし始めたとされている。アート分野の事業に近代的な経営管理を導入する試みの中で検討を重ねられ、プリンストン大学、エール大学、カーネギーメロン大学、UCLAのアンダーソン研究所等のアーツ・アドミニストレーションのMBA養成コース等は人気があり、実績も積んできた典型例といえる。これらの経営管理大学院が集まって、教育効果を高めるために結成した組織としてAAAE(Association of Arts Administration Educators http://www.artsadministration.org/ )がある。筆者は2003年9月に富山県と姉妹関係にある米国オレゴン州のオレゴン大学アーツ・マネジメントプログラムの主任Blandy教授を訪問し、地方大学のアーツ・マネジメントのあり方について取材した。このときに配下のPatricia M. Dewy助教授がAAAE加盟校に共通しているカリキュラムは何かについて行った研究成果の一部を提供してくれた。以下の科目は経営管理大学院のレベルのものであるが、芸術・文化を地域振興に組み込むための理論や方法論を検討し、また、そうした理論や方法論を学ぼうとする人材像を描くためのヒントに富むものである。今後の富山県のモデルに取り入れることの是非も含めて、構想を展開するひとつの手がかりとして、ここに紹介しておこう。

<AAAE参加校の共通科目リスト>
Principles of Arts Management
Specialized Arts Management
Visual Arts, Performing Arts, Media, Heritage, Preservation,
Folk Art, International Arts Management
Development
Fundraising, Grant-writing
Marketing and Communications
Marketing, Sponsorship, Public Relations,
Writing, Audience Development
Leadership and Human Resources
Governance, Trusteeship, Volunteer Management,
Strategic Planning, Decision Making, Team Building,
Project Management, Human Resources, Labor Relations
Arts/Cultural Policy
Advocacy, Political Science, Public Policy, Cultural Economics
Financial Management
Finance, Accounting, Budgeting
Law and the Arts
Contact Law, Copyright Law
Technology and Information Management
Computer Systems, Programming, Statistical Analysis
Aesthetics and Cultural Theory
Aesthetics, Sociology/Philosophy/Theory of Culture
Research Methods and Applications

(上記、科目・内容の直訳)
アーツマネジメント原論
アーツマネジメント特論
ヴィジュアル アーツ、パフォーミング アーツ、伝統(文化遺産)、保存、
民俗アート、国際アーツマネジメント
開発
基金募集、懇願書
マーケティング および コミュニケーション
マーケティング、スポンサーシップ、パブリックリレーションズ、
ライティング、聴衆開発
リーダーシップ および 人的管理
ガバナンス:統治、信頼関係、ボランティア マネジメント、
戦略策定、意思決定、チームづくり、
プロジェクトマネジメント、人的資源、労務関係
アーツ および 文化に関する ポリシー
弁護、政治科学、公共政策、文化経済学
フィナンシャルマネジメント
金融、会計、予算計画
アーツ関連法
契約法、著作権法
技術および情報管理
コンピュータシステム、プログラミング、統計解析
美学 および 文化に関連する理論
美学、社会学/哲学/文化に関連する理論
リサーチ方法 および 分析応用ソフト

 これらのカリキュラムおよび内容をすべて県内の芸術文化研究教育拠点の経営資源だけでカバーするのは困難であろう。発想を切り替えて、地域の方々の参加を募り、地域の職人・作家・評論家・ジャーナリストなどが学生の指導に参画して地域と一体化した人材育成体制(ドイツのバウハウス的な体制)を形成できれば素晴らしい。拠点としても、よりよく貢献できる理想的なあり方となることが期待できる。なによりも、この地域(富山県)の魅力を高めるために「心の豊かさ」を自分達が独自に開発した方式で、自分たちのものとして参加・育成していこうとする県民一人ひとりの高い志を極めて頂くことがかけがえのない営みとなるに違いない。あらたな歴史づくりの挑戦となろう。

とやま経済月報
平成16年6月号