特集

日韓の構造改革と中国を視野にした
日韓地域経済交流づくり一考

とやまITベンチャー協議会 会長 松原 吉隆


1.日本の構造改革

 日本の構造改革の現状は如何であろうか、着実に改革は進んでいるであろうか。
 1月20日の「経済諮問会議、成長率回復は06年度以降デフレ克服先送り」の発表にはこれはおかしいと憤りを覚える、今もってただスローガンのみ唱え続けているビジョン無き構造改革。国民に何の説明無しに締め切りを故意に延ばすルール破りの先送りである。ものづくりには基本的に品質、価格、納期、サービスの4つがあるがどんな良い製品で価格が安くても納期遅れはアウト。日産自動車社長のカルロス・ゴーン氏は「何故、日本はデフレ・スパイラルを克服出来ないのか」という質問に対し「将来に対するビジョン無しでは消費や投資に対する動機が働かず、ドラスティックな変化は生じない。かつての日本人には明確な目標が共有され目標以上の成果を挙げた。痛みを示すだけでなく、ビジョンの提示が必要だ」と言っている。
 2月7日の衆議院予算委における与野党国会論戦で小泉首相に対し菅直人民主党党首がカルロス・ゴーン氏を引き合いに批判した。
 ゴーン氏は再建計画を立て、1年半後に黒字にできなければ辞めると言ったが、首相は1年9ヶ月で何一つ計画が成り立っていないと指摘。「守り」に入った首相の答弁は改革の成果が出ていないことをあっさり認め、小泉内閣は現在、財政、金融両面で政策の手詰まりに陥っている。
 小泉、竹中流は本当に大丈夫か。今、経済政策として物価が持続的に下落するデフレを止めることと、政府がとっている不良債権問題を解決させ銀行がリスクを取って成長産業に融資できるようにすることのいずれが先決かの論争がある。不良債権処理を含む構造改革、規制緩和を進め、その結果産業構造が変わり新規需要が生れるまで景気回復は難しいという認識が後者にはある。政策に対してビジョン、希望、信頼があれば国民は我慢できる。しかし、このままでは橋本政権の徹を踏む可能性が高まっている。小泉内閣に対する国民の信頼は決して磐石ではない。
 2月9日北日本新聞の「天地人」の記事から引用すると経済や生活関連の昨年1年間の統計結果をみる限り、暗い話が続く。失業率は5.4%と過去最悪、失業者も最多の359万人にのぼり「大量失業時代」の不安を感じさせる。自己破産の申し立て件数も全国で初めて22万件を超え、5年前の5倍に。県内でも富山地裁への申し立ては前年の1.5倍の1,125件で過去最多。そんな中で、県内で昨年297人が自ら命を絶った。動機は病苦に次いで経済・生活問題が多い。小泉首相は就任以来「改革の痛み」を国民に求めているが、統計結果をみれば、痛みはひどくなるばかりである。菅氏が引き合いに出したゴーン流改革について、前述にもあるが、ゴーン氏は国民にわかりやすく単純明快でビジョンを示すことが重要だという。日産では、目標を掲げ達成するために市場ニーズを的確に捉えた商品提供という当り前のことを実践し、モチベーションを高め、黒字化、負債削減、技術力の向上を数字で示し、全員が理解、行動しそれが好業績につながったという。


2.韓国の構造改革

 一方、一足先に構造改革の洗礼を受けたお隣の国、韓国は如何であろうか。ここで韓国の構造改革について述べてみたい。
 日韓国交まもない1967年に初めて渡韓して以来、近くて遠い国であった韓国には親しみと関心を持っている一人である。当時の日韓交流は、1年1万人であったものが今日では1日1万人となっている。
 この10年、日韓を取り巻く経済環境は大きな変化を見せてきた。韓国は1996年に念願のOECD加盟を実現して先進国入りを果たし、わが国に様々な形で影響を及ぼし始めている。
 韓国は97年の通貨危機により、IMF管理下経済圧縮を余儀なくされた。韓国国民の強い危機感のもと、韓国政府の取った構造改革を5点にまとめてみると、
 1つは的確な経済政策の一貫性と政府指導者の悪い習慣を打破する強い意志とリーダーシップ。
 2つは金融機関の厳しい経営責任追求。これによって3千人が責任を取らされ、1,300人が刑事責任をとらされたといわれている。
 3つは産業、金融・企業構造の一体的改編の再生。即ち財閥改編、金融改革と共に経営の透明性、大規模なリストラ、企業統治、財務構造の改善等いわゆるグローバルスタンダードの確立を目指した。
 4つは景気回復との並行的展開。前述の1、2、3と共に一方で景気浮揚策、失業対策、生活保障策等の予算を取りセーフティネットを完備した。
 5つ目に政府、企業、勤労者の三者痛み分けによる既得権益返上による国民的コンセンサスをとった。
 以上のこれらのハードランディング構造改革は政府の強制的市場介入によって、健全なる「市場改善システム」をゆがめ、信用カードの信用不良者拡大、不動産価格高騰、国民税負担増、貧富格差拡大等の副作用もあったが、韓国国民は耐乏生活の中、よく頑張り、規制緩和、ITインフラ整備により経済はV字型回復となった。2002年のデータでも5%〜6%台成長を好調に維持している。盧新政権下でも構造改革を更に進め、年平均7%の成長達成を目指しているという。元々日本同様韓国は、教育熱心であり、多くの若者も努力をいとわない国民性を持っている。又、大手企業もハードランディング、リストラ効果により、半導体トップで有名な三星グループはじめ多くの企業の経営がしっかりしてきており、既に世界トップクラスに位置していることは御案内の通りである。
 韓国の魅力については、世界最高水準のブロードバンド普及率に加え、個々の技術者のレベルの高さ、高い起業家精神を指摘したい。更に韓国政府はインフラ整備として、光ファイバー網を2005年度までに全家庭の95%に普及することを目指すという。
 以上の如く前述の日産自動車社長カルロス・ゴーン氏やお隣りの国・韓国の構造改革に学ぶことは多い。80年代と90年代の日米の経済優位の逆転の例をみるまでもなく、おごる優位性は永遠ではなく、歴史は移り変わり、繰り返す。失われた10年は今の日本にとってあまりにも永過ぎる。事態は急を要する。

3.韓国・富山ITベンチャー企業交流会を開催して

開会式 交流会 富山県企業への会社訪問  さて、北陸地域に限ってみると、2000年7月富山で韓国との間で「北陸・韓国経済交流会議」がスタートし、2002年4月には双方から自治体、経済団体、主要企業等総勢約100人が集まり、第3回会議が金沢で開催された。そして、両地域でのパートナーシップ構築や産業技術協力を巡り活発な議論が展開された。
 こうした中で、韓国・富山ITベンチャー企業交流会は2002年10月8・9日、富山市の富山国際会議場で開催された。主催の富山県、富山県総合情報センター、とやまITベンチャー協議会※1が、日韓地域経済交流の発展に貢献する事を目的に、日韓両国ベンチャーの相互交流と情報交換の機会を設けようと国際経済産業交流事業のモデルケースとして日韓国民交流年の昨年初めて企画し、約120名が参加した(共催は財団法人貿易研修センターと韓国中小企業振興公団・韓国ITベンチャーセンター、後援は、中部経済産業局、ジェトロ富山、財団法人富山県新世紀産業機構等の皆様にご支援頂いた)。
 韓国からはシステム開発等を手掛ける11社に加え、韓国中小企業振興公団が設立した韓国ITベンチャーセンターが参加し、県内企業約80社と商談、交流した。
 北陸経済研究所常務理事の山本正臣氏が「北陸における企業の事業革新の方向と成功事例」と題して講演。北陸の企業が持つ生産技術の高さを生かし、価格競争からの脱却やIT活用の必要性を訴えた。
 商談会には、韓国の11社1団体に加え、富山から2社がブースを設置。又、韓国のIT関連企業4社、富山のベンチャー企業2社の計6社が自社製品、サービスを紹介するプレゼンテーションもあった。
 参加者たちは、各社の担当者に事業内容や将来展望などを熱心に質問し、今後のビジネスの可能性を探った。
 成果として、日韓企業(富山CDL・韓国WINK)の日本での合弁会社構想を含めた業務提携の話があり、その後、両社共、双方の会社を訪問済みである。しかし、これら以外に成果があったとは残念ながら聞かれない。これは何も富山だけに限ったことではないが、何故、歴史を持つ日韓経済交流は進まないのか、原因がどこにあるのかと考えてみると、むしろ日本側企業にあると考えられる。
 一つは時代が変わっている(韓国の技術レベル)ことを知らない「錯覚歴史的認識」(オールド世代)。
 ニつ目に富山をはじめとして地方のITの現状は、インフラは整いつつあるが、ITソフト等を用いたビジネス基盤は脆弱であり、ものづくりにおいても自社の新ビジネスモデル構築にIT活用の目的意識が希薄であり、従ってIT先進国である韓国企業との経済交流の関心が薄いと思われる(日本の大企業や一部のIT企業は理解している)。
 ちなみに中国に対しては将来の市場性もさることながら単純に工場として考える為、関心が高いのではないか。


4.日韓中地域経済交流づくり

 さて、中国はめざましいスピードで急成長しており、まもなく世界経済大国になるであろう※2。しかし、東アジアにおいて経済力の均衡を保つ為にも、日韓両国の協力の拡大が求められている。
 韓国も中国に投資しているが、韓国内を知的サービス産業、ハイテク中心に変えていこうとしている。日本の多くのメーカーが「世界の工場中国」に殺到しているが、今後、経済摩擦が増え、急激な膨張は続けられなくなるおそれもある。コストが安いからといって、どんどん中国にモノ作りを移すのは如何なものか。日本でしか作れないものをいかに生み出すか、又、生産現場を持たなければ次の技術や製品は生まれてこない。このようなことを実践している独創的な企業も少なくないが、日本再生のものづくりの為にも商品開発力と急激な需要変動に対応できる生産方法として一人の作業者が10以上の工程を、受け持つ「新セル生産方式」等の生産技術力が一層問われる。又、そうしなければ勝ち残っていけない。
 大事なことは今後どうするかであるが、日韓両国が共に中国の活力と日韓の強みを活かし、WIN−WINするには「賢者は歴史に学ぶ」「相生善縁」の共栄と信頼性の教訓によって、経済交流する日韓企業双方のメリットと成果イメージを明確にすることである(今は不明確)。
 例えば、日韓共同戦線で中国、東南アジアへ進出等、あるいは日韓中連携のビジネスモデルもこれからは多く考えられるであろう。即ち、今まで以上に韓国・中国・世界を知り、自社を知り、従来の思い込んだ錯覚や過去の誤った認識を棄て、「自社ドメイン」の新ものづくりに挑戦、かつ技術を極め、知的生産(ソフト)・先端研究開発、商品開発に特化し、自社の主導権とコアコンピタンスによる海外協業化と自社ブランド化を図ることが、一層求められると思う一人である。
 又、両国においても中国を含めた観光連携も大きな双方のメリットと考えられ、これらをイメージで示すビジョンづくりが求められていると一考する。以上これらのことを通して今後もささやかな実践と微力ながら中国を視野に入れた日韓経済交流の連帯を深め地域に貢献していきたいと思うのである。


※1 とやまITベンチャー協議会とは、
 工業社会から情報社会へのパラダイムシフトは着実に進行する中、まさにITは、知識社会といわれる21世紀の重要な基盤となるものである。
 このことから富山県内での既存産業企業やITベンチャー同士の交流だけに留まらず、近年交流が深い環日本海地域(韓国・中国・ロシアなど)との交流、更には欧米との交流が求められ、よりグローバルなIT関連産業振興を促し地域経済を底上げするため2001年8月1日「とやまITベンチャー協議会」が設立された。
 富山県内において、IT・環境・福祉・医療・バイオ・深層水・次世代分野等といった新規産業や従来の既存産業を問わずいち早くITを活用し、地域経済の活性化、新分野、新事業の創出、地域資源の活用の促進を行うものとし、会員の増強、情報交換・交流会、研究・勉強会、調査・提言活動、展示会、各種講演会、会員相互のホームページのネットワーク化、産学公の交流、環日本海及び海外交流等を通じてIT産業化を図り、ITによる地域経済の活性化、新分野、新事業の創出、地域資源の活用の促進を目的とする。
 協議会には中国人や女性を含め20歳代の大学院生から70歳代の経営者までが所属し、IT以外に県内有数のバイオベンチャー企業はじめ環境等の業種や県内9つの高等教育機関の教授ら20人も含む。2年目に入っている現在、60数名の会員数を3年目に百人台に増やす目標を揚げている。
 当会員の多くは、とやまの売薬精神はベンチャー精神と唱え、売薬が全国の顧客に多様な情報を付加した医薬品を提供したように、本物のとやまブランドを磨き、全世界に価値ある情報を発信すべく、企業人は新ビジネスの構築、大学の研究者は技術の産業化による地域貢献を視野に入れている。また、「産学成果の実績を出すことこそ地域での存在価値」と考え、販路拡大のための商談会や特許ビジネス、グローバル化等の課題解決に向けた勉強の場など実践的な活動を行っている。

※2 中国経済発展20年の歩み
(1) 三つの開国(市場改革)
イ 1978年11月  第11期共産党中央委で「改革と開放」を決定
ロ 1992年10月  第14回共産党全国代表者会議で「社会主義市場経済」導入
ハ 2001年12月  WTO正式加盟

(2) 中国の地位向上
イ 経済成長  1978年以来、年平均9.5%成長
ロ GDP(2001年)   1兆1530億ドル  世界6位 世界の3.5% 日本の30%
ハ 輸出(2001年)     2662億ドル  世界6位 世界の4%  日本の70%
ニ 外貨準備高(2002年6月)  2428億ドル  世界2位

(3) 外資の貢献
国家財政  17.3%(2000年)
工業生産  27.1%(2000年)
輸出    50.1%(2001年)

(4) 中国の世界における生産シェア(トップ)
モーターサイクル 46.1%
エアコン 38.7%
DVDプレイヤー 38.3%
カラーTV 24.6%
VTR 23.2%
粗鋼 14.9%
モバイルフォーン      12.9%
(注)中国は産業革命前(1750)には、世界の生産の33%(世界最高)を占めた。

(5) 中国企業の台頭
当初は外資依存で工業化を達成したが、最近は電気機械製品を中心に中国企業が台頭。
戦略・・・販売ネットワーク、アフターサービス、海外の経営手法と技術の導入、部品の国内調達、信賞必罰の人事、日本人技術者や台湾の管理者の積極採用。


とやま経済月報
平成15年3月号