富山県の産業構造変化と資源消費や環境負荷への影響(U)

富山県 青木卓志
富山大学経済学部教授 増田信彦 


 
これは平成15年10月号の続きである。

4.エネルギー消費

 これまで、バブル経済崩壊後の長期不況や工場の海外進出に伴う国内産業の空洞化などにより、日本全体においても、富山県においても、1990年から2000年までの10年間に産業構造が製造業縮小の方向に変化していることを示した。また、工業用水量、産業廃棄物排出量が全国では増加しているのに対して、富山県においては、資源多消費型で環境負荷物質多排出型の重化学工業が縮小したことや原単位の向上などにより、減少していることやその要因などを明らかにしてきた。ここでは、このようなことがエネルギー消費にも当てはまるかどうかを調べる。 

(1)エネルギー消費の場所

 富山県におけるエネルギー消費という場合に、注意しなければならないことがある。それは、どこまでを富山県で消費したと見なすか、すなわち、火力発電において@富山県の火力発電所で燃焼したすべてのエネルギーを含めるのか(直接的消費)、A富山県で消費した電力に相当する火力発電所で燃焼したエネルギーのみを含めるのか(間接的消費)、B富山県で最終的に消費された電力に含まれているエネルギーのみを含めるのか(最終的消費)、によって結果が異なるからである。図―6は、それぞれの場合の1990年と2000年の富山県のエネルギー消費量を示している。 

図−6 富山県のエネルギー消費


 エネルギーの直接的消費では、約14%減少し、間接的消費では約3%増加し、最終的消費では約10%増加している。直接的消費が大きく減少したのはエネルギー消費において大きな割合を占める火力発電量が、この10年間に富山県でおおよそ半減したためであり、間接的消費と最終的消費の間の増加率の違いは、火力発電が減少したことと火力発電には約6割の発電ロスが生じることからもたらされた。
 1990年には富山県は電力の移出県であったが、2000年には事情が異なってきた。関西地方で消費される電力を供給する関西電力分を含めれば、富山県は依然として電力の移出県である。しかし、それを除いて考えると、火力発電量が半減したため、富山県で消費される電力の一部は主として石川県から移入されている。すなわち、現在、富山県は電力の移入県となっており、かって「電力王国」と呼ばれていた面影は失われつつある。 

(2)エネルギー消費の変化

 これより、富山県のエネルギー消費という場合、間接的消費を用いることにする。そうする理由は、電力を消費することはそれが持つエネルギーよりもっと多くの燃料を消費していることを意味するし、また、もしエネルギー消費の原因(責任)を問うとすれば、火力発電で燃料を燃やす人ではなく、電力を消費する人と考えられるからである。その意味で、私は10月号の「はじめに」において、「エネルギー消費量が全国では増加しているのに対して、富山県では減少している」と書いているが、間接的消費は富山県でも増加しているので、ここで訂正させていただきたい。
 富山県のエネルギー消費量は1990年から2000年の10年間に約3.1%増加しているが、全国では同期間に約13.7%も増加している。@式を使って、この違いをもたらした要因を調べてみると、図―7のようになっている。 

図−7 エネルギー消費の変化率の要因


 全国の場合、国内総生産の増加率、すなわち経済成長率が約14.0%、原単位の向上率が0.3%で、その差が13.7%となり、エネルギー消費量が大きく増加している。それに対して、富山県では、それぞれ約9.5%、約6.4%で、その差が約3.1%と小さいため、エネルギー消費量が少ししか増えていない。

 
(3)エネルギー消費原単位

 富山県と全国における実質総生産に対するエネルギー消費原単位は図―8のようになっている。富山県のエネルギー原単位は1990年に全国平均より大きかったが、急激に向上したため、2000年にはそれより低くなっている。 

図−8 エネルギー消費原単位の変化


 次に、総生産を製造業とその他の二部門に分けて、エネルギー消費の原単位変化がどのような要因の影響を受けたか、その内訳をA式により調べる。その結果は図―9のようになっている。全国では省エネ効果が製造業部門でわずかにあるが、民生や運輸などのその他部門でプラスとなっているため、合わせるとプラスとなっている。そのため、 

図−9 エネルギー消費原単位変化量の内訳


産業構造変化があるが、全体としてのエネルギー消費原単位はわずかに減少しているのに過ぎない。それに対して、富山県では省エネ効果分が大きく、全体としてのエネルギー消費原単位が大きく減少している。 

 
5.二酸化炭素排出量

 地球温暖化を防止するための京都議定書が採択され、二酸化炭素を初めとする温室効果ガスの排出削減が1990年を基準として検討されている。ここでは、エネルギー消費から生じる二酸化炭素排出量についてのみ考察する。


 
(1)二酸化炭素排出の変化

 富山県における二酸化炭素の排出の場合にも、エネルギー消費と同様に、どこまでを富山県で排出したと見なすのか、すなわち、火力発電において@富山県の火力発電所で排出したすべての二酸化炭素を含めるのか(直接的排出)、A富山県で消費した電力に相当する火力発電所で排出した二酸化炭素のみを含めるのか(間接的排出)、によって結果が異なるという問題が生じる。図―10は、二つの場合における1990年と2000年の富山県の二酸化炭素排出量を示している。 

図−10 富山県の二酸化炭素排出量


 直接的排出の場合、10年間で二酸化炭素排出量が約20%減少し、間接的排出の場合、約0.3%減少している。どちらも排出量が減少し、それらの間の大きな違いをもたらした主な要因は、エネルギー消費の場合と同様に、火力発電量の半減である。 

図−11 二酸化炭素排出の変化率の要因


 ここでも、二酸化炭素排出という場合、エネルギー消費の場合と同じ理由で、間接的排出を用いる。富山県の二酸化炭素排出量は1990年から2000年の10年間で約0.3%減少しているが、全国では同期間に約10.2%も増加している。@式を用いてこれらの違いをもたらした要因を調べると、図ー11のようになっている。富山県では全国と比較して、県内総生産の伸び率が低く、また原単位の向上率が高いため、二酸化炭素の排出が増えていないことがわかる。 

 
(2)二酸化炭素排出原単位

 1億円の付加価値を生み出すためにどれだけの二酸化炭素を排出しているかを表す二酸化炭素排出原単位は、図ー12のようになっている。1990年と2000年のどちらも富山県の原単位は全国よりも高くなっている。しかし、この10年間に相当原単位がよくなっている。 

図−12 二酸化炭素排出原単位の変化


 次に、二酸化炭素の排出原単位がどのような要因により影響されているのか、その内訳をA式により計算すると、図―13のようになっている。 

図−13 二酸化炭素排出原単位変化量の内訳


 富山県では全国平均と比べて、排出削減効果も産業構造変化も大きいため、原単位が全国の約3倍も向上している。 

 
おわりに

 これまで、富山県の産業構造の変化といくつかの資源や環境負荷物質についてみてきたが、そこにはある種の特徴があるように思われる。一つには、全国的に産業構造が製造業の減少に向かって進んでいるのであるが、その中で、重化学工業が盛んであった富山県はその傾向が強く出ていることである。次に、資源多消費型で環境負荷物質多排出型の重化学工業が停滞することにより、多くの資源の消費量や環境負荷物質の排出量が全国平均と比べて増加率が低くなっており、いくつかのものは減少している。まだ重化学工業の比率は平均より高いが、着実に減少しているように思われる。それに相応するように、各種の資源の消費原単位や環境負荷物質の排出原単位はまだ全国平均より大きいが、急速に改善されつつあるようである。原単位が大きかったので、それだけ削減する余地があったのかも知れない。ともかく、資源や環境の使用の点で、富山県はだんだん平均的な県に近づいているように思われる。 


平成15年12月号