特集

いい仕事、人へ、街へ、未来へ。
富山市価値創造プロジェクト 始動宣言

富山商工会議所 企画総務部長 宮崎公順

Good Working! TOYAMA

【はじめに…富山のポテンシャル】
 昨年、富山県(富山市)にとって、Good Newsが相次ぎました。NHKの大河ドラマ「利家とまつ」は、加賀百万石の始祖“前田利家”とその妻“まつ”を中心にした物語でしたが、富山にとっては、前田家入城前の富山城主“佐々成政”とその妻“はる”が、利家(まつ)、秀吉(おね)と並んでしばしば登場したことで、私たちは佐々成政の人となりやその業績を改めて再評価・再認識することができました。
 夏には、富山市出身の本木克英監督により年初来撮影が進められてきた松竹の人気映画「釣りバカ日誌13」が富山を皮切りに全国で公開され、これまで以上の筋立てのおもしろさに加えて、立山をはじめ富山の自然やくすり、井波彫刻などの産業、人情など、富山の良さがテンコモリに描かれており、これもまた郷土富山の素晴らしさを自覚することができました。
 また、10月には、富山市生まれで高校までを富山市で過ごした田中耕一さん(島津製作所フェロー)が、2002年のノーベル化学賞を受賞することに決定した(授賞式は12月8日)という嬉しいニュースが飛び込んできました。その気取らず爽やかな態度は、テレビ等を通して富山のみならず全国の方々の注目を集めました。
 このように、昨年は富山(県・市)が持つ素晴らしさ、アイデンティティを私たち市民・県民が確認した年でもあり、景気がなかなか回復しない中、自信を取り戻し、元気づけられたような感じがいたしました。


【富山市価値創造プロジェクトの立ち上げ】
 一昨年5月に、北陸新幹線(富山〜上越)が本格着工し、開業までおよそ10年というスケジュールが立てられたことを受けて、富山商工会議所は、富山市の街づくり(ことに中心市街地)に早急に本腰を入れていかなければならないとの思いを強く抱きました。
 富山市(県)は、住みやすさ指標で上位にランキングされていることから、そこに住む私たち市民が「住みやすい都市(県)」として評価していますが、新幹線が開業する10年後に、富山市は輝いているでしょうか。新幹線の開業は、首都圏でのショッピング、イベント参加、観劇など、私たちの選択肢を広げるメリットをもたらす一方、地元富山における消費や生産などにおけるマイナス面も懸念されます。
 昨年1月、会議所内に「富山市価値創造プロジェクト」特別委員会(委員長は瀬戸徹副会頭)を設置、企業の代表者の方々や学識経験者、商業関係者などに委員をお願いして、討議・議論を続けてきましたが、昨年10月に、取り敢えずそれまでの検討結果をまとめ、関係者や一般市民の方々の評価と意見を求めるともに、出来ることから実践していこうということになり、「富山市価値創造プロジェクト 始動宣言」(第一ステージ報告書)を公表しました。


【自らの街は自らが責任を持って創る】
 公表にあたって、私たちは、完成度の高い「報告書」を求めるあまり、調査や調整に時間を費やしたり、報告書を提出して、それで「あとは(行政に)お任せ」というスタンスはとりませんでした。内容の完璧さより、市民が、自らの街(都市)は自らが責任を持って創っていくのだという、コミュニティの原点を確認することが重要であると考えました。この報告書を読んだ市民の方々がその趣旨をご理解していただき、自ら住む富山市がもっと元気になるようなアイデアやプロジェクトを考え、いろいろな市民・団体等や行政とも連携しながら、小さいながらも自分たちで出来ることから行動していくことが大切であると思いました。もちろん、私たち富山商工会議所も出来ることは自ら実施していこう、としています。そういう意味を込めて、「始動宣言」としているのです。
 このプロジェクトを進めていく中で、「こうすればもっといい」「こんなテーマに取り組んだらどうか」など、市民からのいろいろな意見や提案、行動が出てくるでしょう。時代遅れになってしまうテーマもあるかもしれません。私たちは、次のステップでは、そうした新しい価値資源を加味したものへとリニューアルしていくつもりです。このプロジェクトの本質は、「運動体」であり、運動の中から常に新しいテーマや活動が生まれ続けることこそが本旨であるからです。
 まさに、市民主導で官民一体となった「価値創造ムーブメント」への進化へとなっていく永久運動であることを願っています。


【Good Working!TOYAMA いい仕事、未来へ】
 これまでも、市民参加型の街づくりへの取り組みはありました。これからも、様々な活動があるでしょう。こうした活動の一つひとつが、人々に、街に、未来に、「価値」を届ける“いい仕事”(Good Working)になるはずです。それを、もっともっと増やしていこう。市民一人ひとりが「いい仕事」の担い手になろう。そのような思いを込めて、このプロジェクトのスローガンを「Good Working!TOYAMA〜いい仕事、人へ、街へ、未来へ。〜」としました。
 現状の富山市の街づくりの問題や課題を意識しつつも、富山市の様々な「価値資源」に着目して、それらを「富山市の価値」として光輝かせるための仕組みやテーマを市民に提案し、それをもとに市民が「自らの街は自らが責任を持って創っていく」という気概を持って、「現状を“変えていく”ことを、“いま”から、“市民の手で”始めよう」ということが、このプロジェクトの起点となっています。


【価値とは・・・大切にしたい、誇りに思うこと】
 富山市価値創造プロジェクトでは、文字通り「富山市の価値とは何か」から考え、発想していきます。私たちは、「価値」を、「日々の生活の中で、自分にとって、社会にとって役に立つと考え、大切にしたい、誇りに感じる、ときに自慢したいと思うコト・モノ・暮し方の総称」と定義しました。それらは、日常生活の時間や、身の回りの空間の中に息づいており、その中にある大切なもの、本質的なことに気付き、目を向けることが「価値」探しの始まりだと思います。


【埋もれている価値を再発見】
 富山市の様々な「価値資源=価値の素となるもの」を今日的な眼、未来の視点で個々に評価し直してみると、これから「価値」になっていくものに気づくかもしれません。忘れ去られていたものの中にも、これからの「価値資源」が埋もれているかもしれません。
 そして、これらの「価値資源」をある文脈(コンテクスト)の中において、関連する「価値資源」と組み合わせてみることで、資源単体が「価値」の塊として輝いてくる場合があるでしょう。今までも素晴らしいと思っていたことでも、新鮮な驚きを持って、より以上の素晴らしさ=富山市の価値として気づくかもしれません。それが富山市の「価値」です。
 その一連の行動を、市民一人ひとりが実践していくことが「価値創造」です。ゼロから何かを生みだそうとすることよりも、富山市の中にすでにある「価値の素」に新しい光をあてて輝かせることが大切だと思います。


【価値創造のための5つの仕組みづくり】
 富山市という舞台で、価値資源という素材を有効に活かしていくために、もう一つ必要な機能、それが「仕組み」というソフトです。次のとおり5つ設定しました。
(1) 「集める・集まる」仕組みづくり
 富山市の中心に「集める」ことによって、「まずは富山市に行ってみよう」と思わせる仕掛け。そうしたモノや情報が「集まってくる」ためのネットワーク拠点を整備する。
(2) 「結ぶ・廻る」仕組みづくり
 富山市は価値資源(文化施設や観光名所等)が市内各所に散らばっており、駅周辺地区も鉄道が南北に分断している。点在する価値資源を「つなぐ」仕組み、徒歩や自転車などによる移動そのものが楽しめる仕組み、および都心の回遊導線を設定する。
(3) 「賑わい創出」の仕組みづくり
 都心の顔であるべき中心商店街(総曲輪通り・中央通り・西町など)は、人々に対して「郊外のショッピングセンターとは異なる価値」を提供することが必要条件となる。多様な店揃えに加えて、飲食や娯楽、休憩場所の充実。また、「そこに行けばいつも何か新しいコトが起こっている」こと、たとえばイベントや市民祭りとの連動。リピート客が特典を受ける仕組みを作る。
(4) 「遊ぶ・創る」仕組みづくり
 売薬というビジネスモデルの創造、ベンチャー企業の輩出、ますの寿司から近年のガラス工芸に至るまで、富山市には産業創造の実績が豊富に存在し、その創造活動の伝統が根付いている。
 産業は産業、芸術は芸術と区分してしまうのではなく、都市生活を楽しむための素材と捉え、日常の中に採り入れていくことで、富山固有の文化風土、富山市民らしい“遊び心”の発現を促す。
(5) 「話そう富山」の仕組みづくり
 「価値」の発見、その「価値」の共有、共有された「価値」の内外への発信。この一連の流れによって、街は魅力的に見えてくる。まずは市民自身が富山市の良さに気付くこと、それを相互に語りあう習慣を持つことから始める必要がある。それを域外に発信することが、交流人口の増加につながる。


【5つの価値創造テーマ】
 富山市の魅力や可能性を有効につなぎ、「こんな富山市にしたい」とするイメージを共有し、磨きをかけ明確な個性としていくため、当面、重点的に取り組むべき「価値創造テーマ」として次の5つを設定しました。
価値創造テーマ(1) 水恵・水景
水恵・水景 富山湾、神通川、常願寺川、松川、いたち川、城址堀、富岩運河環水公園、富岩運河、地下水の音、冬の雪、海洋深層水、立山の積雪、…。その水がもたらす豊かな恵みと、水のある景観の美しさにこだわってみる。やがてそれが富山市民の誇りの源泉となる。
価値創造テーマ(2) 越中味処
越中味処 越中富山にも「味処」と呼ばせるだけの歴史と伝統はある。ぶり街道、ますの寿司、富山湾の魚、きときと市場、…。残念ながら、豊富な食材はあっても、独自の料理、食文化が広がらず、市内にそれを味わう場と機会も多くはない。「食」こそ都市の魅力の第一である。
価値創造テーマ(3) 健やか薬都
健やか薬都 富山と言えば薬売り。これだけ知られた地域シンボルは数少ない貴重な財産である。
 一方、世は健康志向、健康商品が成長産業となる時代、この流れを街の魅力に呼び込まない手はない。
 薬はもとより、食材、料理、散策、スポーツ、…、そのすべてが健康づくりの素材となる。それを編集し、事業化、情報化していく。
価値創造テーマ(4) 顔のある街
顔のある街 特徴的なランドマークやピクチャースポット、人出で賑わう街角、街中からの立山の景観、…。富山市ならではの「拠点」をつくる。そこに、重点的に多機能を集積し、賑わいを生みだす。富山を印象付け、一度訪れただけでも記憶に残る街並み=「顔」を再構成する。
価値創造テーマ(5) 多士才彩
多士才彩 人が街を創り、街を彩る。人が価値を継承する。人を中心に据えた富山市の価値創造を形にしたい。
 これからの時代、他人と同じように在るのではなく、個性的・自立的に生きることに価値がある。その活動を応援し、伸ばし、それが30数万人分集まれば、おのずから個性ある都市に成長するはずである。


【価値創造のためのマトリックス】
 「価値創造テーマ」への取り組みを通して、「価値創造のために必要な仕組み」を構築していくことが、このプロジェクトの発想の基本形です。たとえば、「水恵・水景」というテーマのもとに、水に関わる様々な価値資源を「集める」方法、「廻る」方法、「賑わいに繋げる」方法を考え、その具体策を埋めていく、ということです。

始動期の
価値創造テーマ
価値創造のための仕組みづくり
集める・
集まる
結ぶ・
廻る
賑わい
創出
遊ぶ・
創る
話そう
富山
水恵・水景




越中味処




健やか薬都




顔のある街




多土才彩






【終わりに】
 富山商工会議所が、「富山市価値創造プロジェクト始動宣言」を公表して4ヶ月あまり。この間、事務局では、会報「商工とやま」やホームページなどを通して広報するとともに、いろいろな機会を捉えて、関係団体や企業に対して、説明会と意見交換会を開催してきました。少しずつですが、「価値創造の輪」が広がってきているように思います。
 なお、「水恵・水景」のテーマについては、昨年12月に、その実施プロジェクト検討委員会を立ち上げ、様々な角度から、富山の水の恵みや景観を生かすプロジェクトができないか検討を始めています。
 そのほか、今年8月(〜10月)に開催される「第7回世界ポスター展」(世界ポスタートリエンナーレ・トヤマ2003/主催は富山県立近代美術館で1985年から3年毎に開催)が世界的に評価の高いポスター展であり、富山市(県)の価値資源であることを、もっと市民・県民に知ってもらうとともに、富山市の顔とし、地域活性化、元気なとやまづくりに生かすためのイベント「ポスターの街・とやま」(仮称)事業も進めています。また、「頑張る人を褒めよう運動」の一環として、「Good Working賞」も制定しました。
 いずれにしても、富山市価値創造プロジェクトは、富山商工会議所だけの運動ではありません。市民一人ひとりが、「自分たちの街は自分たちが責任を持って創っていくのだ」という気持ちを持ち、自ら出来ることは自ら実施していくという行動が重要です。
 北陸新幹線が開業する10年後に、富山市が輝いているよう、「現状を変えていくことを、今から、市民の手で、始めよう」が、富山市価値創造プロジェクトの選択であり、起点です。
 富山市の「価値創造」に向けて、ともに次の一歩を踏み出そうではありませんか。


【ホームページにアクセスしてください】
 この第一ステージの報告書(=パンフレット(概要版))は、次のアドレスにアクセスすることで、その全文がご覧になれます。
 http://www.ccis-toyama.or.jp/toyama/kachi/toyamakachi_p.pdf

 また、委員会や分科会での意見や討議の内容を適宜、富山商工会議所の会報「商工とやま」で掲載してきました。それについては、次のアドレスの「語ろうとやま」の項目にアクセスしてください。
 http://www.ccis-toyama.or.jp/toyama/kachi/kachi.html

 富山市価値創造プロジェクトに関するご質問やご意見もお寄せください。


【お問合せ先】
 富山商工会議所企画総務部 (電話 076-423-1112(直))
 富山市総曲輪2−1−3 (〒930-0083)


とやま経済月報
平成15年4月号