特集


韓国におけるベンチャービジネス・創業支援の現状と
富山県産業との交流・連携の可能性(4)
富山国際大学地域学部地域研究交流センター研究チーム
 長尾治明 高橋哲郎 小西英行(以上、富山国際大学地域学部)
 趙佑鎮(青森公立大学)權五景(長岡大学)


はじめに

 本特集は7月号から4回にわたり連載してきたが、その最終稿として、まとめの意味も含めて韓国ベンチャービジネスの特徴をベンチャー企業の属性、ベンチャー企業の創業・支援政策、ベンチャー企業の海外進出のそれぞれの側面から検討・整理することによって、韓国ベンチャービジネスの理解を深めると共に、最終章において4回分の総括を簡単に行うこととする。


1.韓国ベンチャーの企業属性にみる特徴※1

 韓国中小企業庁の調査資料によると、韓国のベンチャー企業数は2000年末8,798社に達し、2001年8月末には1万社を超え、急増している。韓国では、表に示す4タイプをベンチャー企業と認定しており、その中でも「ベンチャー評価優秀型企業」が最も多く全体の54.3%を占める。ちなみに、ベンチャー企業評価機関は中小企業振興財団、技術信用保証基金を代表とする11の政府系研究機関がある。
〈表〉韓国ベンチャーの定義
ベンチャーキャピタル
投資型企業
創業投資会社、新技術事業金融業会社、または韓国ベンチャー投資組合など、韓国内のベンチャーキャピタルからの投資総額が資本金の20%以上の企業
研究開発集約型企業 研究開発費が年間総売上額の5%以上の企業
特許、新技術型企業 特許権実用新案権および技術開発事業による売上額(輸出額)が総売上額の50%(25%)以上の企業
ベンチャー評価優秀型企業 ベンチャー企業評価機関から技術性または事業化能力が優秀だと評価された企業

 特に、韓国ベンチャー企業は1998年以後の3年間に新規創業した企業が半分以上を占め、アジア通貨危機以降、ベンチャー企業が相次いで誕生している。業種別では半導体装備・通信装備などの「先端製造業」と「ソフトウェア・情報通信サービス業」が約7割弱占め、1998年以降はIT(情報技術)関連企業が中心となっている。ちなみに、1998年以前に設立されたベンチャー企業は「一般製造業」が多い。
 創業者の年齢は30代48.6%、40代35.5%となっており、二人に一人は30代で若手創業者が目立つ。また、年齢と業種別との関連では、30代は「先端製造業」、「ソフトウェア・情報通信サービス業」、40代は「先端製造業」、「一般製造業」において創業が多いといった関連がみられる。
 次に、創業者の学歴をみると、最近、急速に高学歴化が進んでいることが分かる。1997年以前の創業者では、修士・博士修了者が25.1%を占めていたが、1998年以後では43.2%に急増している。特に、同期間における博士号取得者の創業は5.9%から21.5%に増加している。このように、韓国ベンチャー企業の創業者は最近、大学院卒が急速に増える傾向にあり、業種との関連では、大学院卒創業者は「バイオ分野」が74%と最も高く、次いで「研究開発関連サービス」69%、「先端素材分野」51%、「電子商取引分野」48%などとなっている。一般的な傾向として「先端製造業」では、博士修了創業者が17.5%と高く、最近の韓国ベンチャー企業は益々、高度な専門知識や専門技術が要請されていると言える。また、この傾向は創業者の専攻分野にも関連しており、学位取得者が大半を占める「工学」専攻が過半数を占め、「経営・経済学」専攻の約2割を大きく上回っている。
 以上概説してきたように、韓国ベンチャー企業は 1)1998年以後の新規創業企業が多い、 2)先端製造業、ソフトウェア・情報通信サービス業が中心、 3)30代、40代創業者が大半、 4)大学院卒創業者の急速な増加、などといった特徴がみられる。
※1『2001年度ベンチャー企業精密実態調査結果』(韓国中小企業庁2001年)、『韓・日ベンチャー企業比較研究』(韓国ベンチャー企業協会2001年)を参照。


2.韓国ベンチャー創業・支援政策にみる特徴

(1)「ベンチャー企業育成に関する特別措置法」
 現在、韓国ベンチャー企業を支援する主要な関連法規及び制度として、「中小企業創業支援法」(1986年4月制定)、「新技術事業金融支援に関する法律」(1986年12月制定)、「ベンチャー企業育成に関する特別措置法」(1997年8月28日制定)などがある。特に、韓国ではベンチャー企業だけを対象として育成するための「ベンチャー企業育成に関する特別措置法」が重要な意味をもち、ベンチャー企業の振興・育成に大きな役割を果たしている。
 同法はベンチャー企業育成基盤の構築のための資金・人材(特に技術者)・立地供給の円滑化などを主な目的としており、2007年までの10年間の時限立法である。これが有効に機能し効果を発揮しているのも、まさに表のように、政策対象となるベンチャー企業の定義が公式になされ明確にされているからである。
 同法の運営については、政策立案・方針等を審議・議決するための「ベンチャー企業活性化委員会」と同委員会業務の専門性と効率性を確保するための「ベンチャー企業政策協議会」が基幹的な役割・機能を果たしている。施策の具体的実施・推進については、情報通信部ではソフトウェア振興区域指定、ベンチャー創業振興開催などの施策、科学技術部ではベンチャー企業の実用化研究、科学技術振興基金出資等、財政経済部では銀行業界のベンチャー企業支援督励、ベンチャー投資促進誘導、文化観光部ではアニメーション、ゲーム事業など文化観光分野をそれぞれ担当し、ベンチャー育成のための支援行政体系が構築されている。

(2)立地支援政策
 韓国ではベンチャー企業に対する立地支援政策として、「創業保育センター」、「新技術保育センター」、「ベンチャー企業集積施設」が展開されている。
 まず、創業保育センターについては、中小企業庁が1992年から1997年までに12ヶ所を指定している。1998年からは中小企業振興公団を通じ、政府が全費用を負担する直接設立方式から、教授を始め研究員や施設等の支援与件が整備・充実している大学や研究所等に建設費の一部を支援する間接設立方式に切り替え、14の大学を選定し63億ウォン(約6億3千万円)を投資している。その方式には、8月号において紹介した「大邱テクノパーク」と「慶北テクノパーク」も含まれており、これらは大学主導で運営されている。
 1999年には、1次で35大学及び研究所を選定し、2次で創業保育センター44機関とインターネット創業保育センター30機関、合計74機関を事業者に選定している。インターネット創業保育センターについては急増しているインターネット創業企業を育成するために、地域別にインターネット関連拠点を30ヶ所選定している。
 次に、新技術保育センターは、産業資源部が「産業技術基盤助成事業」の中の一つとして実施している新保育事業の具体的推進機関で、1999年現在、40の大学・研究機関が指定されている。具体的には、大学や研究機関の優秀な人材や保有施設を効果的に活用して、高付加価値新技術を保有した人材を対象に技術開発から創業・事業化まで総合的支援を実施している。
 それから、ベンチャー企業集積施設は交通、情報・通信、研究、金融などの諸機能が集中している都心で、ベンチャー企業が集団的に入居できるように民間ビルなどをベンチャー企業集積施設に指定し、各種支援が受けられる都心型ベンチャー企業集積施設のことをいう。1999年末現在、64のベンチャー企業集積施設があり、その3分の2以上はソウルに集中している。政府は2001年からベンチャー企業を地方に拡散するために全国20地域、36ヶ所を「ベンチャー企業育成促進指定地区」に指定し2001年の主要政策とした。

(3)租税支援
 韓国のベンチャー産業に対する租税支援制度は、主に「租税特例制限法」で規定されている。その中で、主要なものを列挙すると、次の支援制度がある。
1) 原則2年間、ベンチャー企業として選定された企業に対して各種の税務調査を免除する。
2) 創業日から2年以内に取得した事業用財産に対し、登録税免除。
3) 創業日から5年間、50%相当の所得税また法人税減免。
4) 創業日から5年間、50%相当の財産税及び総合土地税を減免。


3.韓国ベンチャー企業の海外進出にみる特徴※2

 韓国ベンチャー企業の約6割弱(5,631社中3,305社)は海外市場に進出しており、その進出形態は「輸出」が7割強、「海外支社設立」が2割強、「海外合弁法人設立」が1割強となっており、輸出が圧倒的に多い。海外進出地域は米国24%、中国20%、東南アジア19%、日本17%、ヨーロッパ12%、その他8%となっており、米国への海外進出が最も多い。特に、米国シリコンバレーに進出したベンチャー企業は147社で、海外進出企業全体の4.4%(147社/海外進出企業3,305社)を占めている。
 今後の海外進出計画については、回答企業(5,631社)の約9割が海外市場に進出する計画をもっており、今後も積極的に展開されるものと予測される。具体的な海外進出計画地域は米国26%、中国25%、東南アジア17%、日本15%、ヨーロッパ12%、その他5%となっており、今後は米国、あるいは中国への海外進出を考えている企業が多い。特に、米国シリコンバレーへの進出計画企業は235社あり、海外進出計画企業の4.7%(235社/海外進出計画企業5,052社)に相当する。また、海外進出計画時期については、海外進出計画企業の約4割が今後1年以内、約3割が2年以内と回答しており、韓国ベンチャー企業の多くは早急に海外進出を具現化していくものと考えられる。
 しかし、韓国ベンチャー企業は海外進出に際し、「資金不足」、「海外市場情報不足」、「専門担当者不足」などを重要な障害要因として指摘しているので、今後、ベンチャー企業の海外進出を推進・促進するためには、ベンチャー企業に対して海外ビジネス情報の提供や現地専門家によるコンサルティングなどを迅速に、正確に支援できる体制を早急に構築していく必要がある。この点については、当調査研究において、今回、我々が数多くの韓国ベンチャー企業にヒアリング調査を実施して実感できたことでもある。韓国ベンチャー企業の多くは富山の企業及び日本の企業との具体的な交流を強く望んでいるが、その具体的な手順や方法が分からない状態にある企業や、その手順や方法が分かっていても、専門担当者、資金、海外企業情報の不足などの要因で実現できない企業が数多く見受けられた。
 今後、韓国ベンチャー企業がグローバルな企業として成長していくためには、海外進出に必要な情報や資金等をタイムリーに提供できるシステムをいかに構築できるかにかかっていると言える。
※2 『2001年度ベンチャー企業精密実態調査結果』(韓国中小企業庁2001年)を参照。本調査では8,245企業中5,631企業が回答。


4.総括

 昨年度、富山国際大学地域学部地域研究交流センター・産業経営系スタッフが実施した『富山・韓国・ロシアの産業及び経済交流の可能性研究調査報告書』(富山県委託調査)の中から韓国ベンチャービジネスを取り上げ、その現状と富山県産業との交流可能性について7月号から4回にわたり連載してきたが、韓国ベンチャー産業は端的に表現すれば、IT関連ベンチャー企業を中心に、凄まじい勢いで発展しつつある。こうした急速な成長背景には、「ベンチャー企業育成特別措置法」に基づいて講じられる各種の施策が功を奏しているという見方もできるが、それ以上に、慶北大学電子電気工学部(2001年に電子電気コンピュータ学部に改称)が母体となって設立された大邱テクノパークや嶺南大学内の敷地に造成された慶北テクノパークなどにみられたように、大学が求心力をもちベンチャー企業の創業・育成に重要な役割・機能を果たしている点が大きな意味をもっていると言える。
 特に、慶北テクノパークは富山県産業の交流・連携という視点から捉えると、数多くの有益な示唆を与えてくれると判断できる。というのは、慶北テクノパークは8月号で紹介されているように、地域産業に密着し、繊維産業及び機械産業などの地場産業の高度化を情報技術の導入により推進・促進しようという狙いをもって完工されたテクノパークだからである。富山県としては、主要産業であるアルミ産業、医薬品産業などの従来型産業の再活性化策を今後検討していく際に、慶北テクノパークの事業内容は大いに参考になると言えよう。
 今回、我々が実施した調査研究の本来の目的は富山県産業との交流・連携にあったが、その当初の目的は今回の調査研究で十分に成し遂げたとは言えない。これを契機に、富山県産業とベンチャー産業を始めとする韓国産業との今後の交流・提携のあり方を更に探求していきたいと考えている。
 最後に、本テーマに興味・関心のある方々のご支援・ご鞭撻のほど、何卒宜しくお願い致します。
 
文責:富山国際大学地域学部教授 長尾治明(nagao@tuins.ac.jp)

とやま経済月報
平成14年10月号