特集


統計からみた地域の見方・考え方(1)
富山大学経済学部助教授 柳井雅也

 本日は、「統計からみた地域の見方・考え方」ということで、ユーザーの立場から、統計をどういうふうに使わせていただいているかという話をしてみたいと思います。
 つまり、統計データを地域分析にどう使っているのか、あるいは地域政策までどういった形でもっていくかという話になりますが、流れとしては、一般的な統計を集計して図化を行い、判断、応用を考えていくということになります。

I.使用法と意義

1. データをさまざまな地域の単位で集計する。
 データを操作する際には、最初にこの作業を行います。
 図1、2は大阪市内の図を示したものです。

図1
図

図2
図
(図1、2とも小長谷一之「パーソナルコンピューターによる3次元図表現の試み」地理科学44-2、1989)

 統計の単位というのは、市町村を単位にしたり、あるいは大都市圏を単位にしたりします。★印部分は御堂筋あたりです。2は梅田です。4は新大阪駅です。これは鉄道路線図を書いて、建物の高さをメッシュデータという形にして、高さを落とし込んでいったもので、それを立体的に表すと、こういうふうな形になります。新大阪駅と梅田のあたりに高い建物が集中している様子を示しております。こういったデータも、1次統計を元につくられます。
 図3「富山県市町村別における電気機械工業の付加価値額と生産性」では、県平均と比べて、砺波市の付加価値の絶対額と生産性(付加価値額/従業員数)が高くなっています。これはなぜかというと、砺波市には松下電子の半導体の工場が立地しており、雇用と生産額が伸びているからです。

図3 富山県市町村別における電気機械工業の付加価値額と生産性(1995)
図
※注) 平均に比べてである。
 
付加価値額平均値:766,861万円
付加価値生産性平均値:935万円

 このように、数字を市町村別に加工すれば、既知の知識と結合して、より深く分析していくキッカケがでてきます。

2.統計分析を行う。
 統計にはいろんな分析法があります。私は統計の専門家ではないので全部わかっているわけではありませんから、必要な範囲で使っております。目的に応じて、こういうものが使われるとご理解いただければ結構かと思います。
 図4は、日本の地図に第I次産業、第II次産業、第III次産業というふうに分類して示したものです。私たちの「北陸」はI.II≧1の部分に該当しており、農業などの一次産業や二次産業が卓越した地域であるということです。「東京・千葉」はIII≧1でサービス産業など第三次産業が優勢であるということがいえます。

図4 都道府県別第I・II・III次産業特化指数(1980)
図
(北原貞輔・矢田俊文編「地域経済システムの研究」九州大学出版会、1986)

 この図4は地域の特化係数を使ったものですが、全国におけるシェアとその県の中におけるシェアの比率を求めて、3つの産業について比較することによって、こういう地域区分が可能になるという一つの事例であります。統計分析を行う上ではいろんな方法がありますので、参考にされるといいと思います。
 表1は東京圏の業種構成を示したものです。1966年と1998年の出荷額を比較すると、東京都区部では印刷業が非常に盛んだということが分かります。このように、年次の主要産業の順位の交代と地域(東京都区部、多摩地域、横浜市、川崎市等)を組み合わせることによって、各地域の産業の移り変わりが見えてきます。
 このほかに「労働生産性」とか「資本装備率」といった難しい用語がありますが、そういった指標を用いて、経済学的な視点からの分析を行うことも可能になります。

表1 東京圏の業種構成変化
地域 年次 出荷額等
(億円)
1位
(%)
2位
(%)
3位
(%)
4位
(%)
5位
(%)
東京都
区部
1966
1998
40,332
113,958
印刷 14.5
印刷 49.1
電機 10.7
一機 6.5
一機 9.9
電機 5.8
化学 8.5
食品 5.3
食品 8.5
化学 5.2
東京都
多摩地域
1966
1998
6,646
80,367
電機 27.3
電機 49.4
輸機 19.7
輸機 16.9
食品 10.3
一機 6.4
一機 8.2
食品 5.4
ゴム 6.8
精機 4.5
横浜市 1966
1998
11,086
53,462
輸機 20.8
電機 27.3
食品 14.3
一機 14.8
電機 13.6
石油 10.6
化学 9.0
食品 10.5
一機 8.5
輸機 9.3
川崎市 1966
1998
12,095
45,421
電機 21.1
電機 23.0
鉄鋼 15.7
石油 19.6
石油 12.7
化学 15.6
化学 11.2
輸機 11.8
食品 10.4
鉄鋼 7.9
その他の
神奈川県
1966
1998
11,028
130,910
輸機 38.4
輸機 27.7
電機 12.0
電機 23.2
化学 11.4
一機 12.1
食品 7.4
化学 11.6
一機 7.3
食品 4.6
埼玉県 1966
1998
11,939
147,001
輸機 13.0
電機 19.2
食品 10.8
輸機 14.4
電機 9.3
一機 9.6
一機 8.0
化学 8.6
化学 7.6
食品 8.5
千葉県 1966
1998
8,807
117,622
鉄鋼 25.3
化学 17.1
食品 16.9
電機 14.1
石油 11.8
鉄鋼 11.8
化学 8.2
食品 10.9
金属 6.1
石油 10.7
「工業統計表(市区町村編)」による。
注:出荷額等は製造品出荷額等であり、業種の印刷は出版・印刷、電機は電機機械、一機は一般機械、輸機は輸送用機械、精機は精密機械、石油は石油製品・石炭製品、金属は金属製品の各製造業のこと。
食品の1966年には飲料品製造業を含む。
(富田和暁・藤井正編「図説 大都市圏」古今書院、2001)

3.統計を表現する(1)
 統計を表現するとき、私たちはよく地図で表現を行います。グラフィックな形にすると、空間的な関係を非常に鮮明に意識できるようになります。
 図5は統計の表現のタイプを示したものです。普段の仕事の統計をグラフィック化していくときのいろんなテクニックを模式的に示したものです。

図5
図
(Kraak & Ormeiling "Cartography" Longman,1996)

 なぜ図化が大事なのかというと、地図に落とし込んでいきますと、距離や面の問題が出てきます。つまり、どの位置を占めていると非常に有利なのかということが見えてきます。統計のデータをもとに図化しますので、統計と図が不即不離の関係、つまり、お互いがお互いを支え合うような関係という言い方ができます。これが統計地図あるいは主題図と言われているものです。
 図の表現にはいろいろあります。等値線図は等高線のように見えます。天気予報でしか見たことがないかもしれませんが、例えば富山市の地図については、ここに示している図のように等値線図で表すことができますし、路線網がどうなっているかを見るときは流線図で表します。
 こういったさまざまな表現方法を駆使してつくられた図をもとに、例えばここにこういう施設をつくったほうがいいのではないか、あるいはこういう政策に力を入れたほうがいいのではないかということを考えることができます。

4.統計を表現する(2)
 統計から地図化するということは、「距離や空間の意味が追加」されるということでして、これがきょうのお話の大きなポイントになっていきます。地域区分法が非常に重要です。
 図6は、国別人口をグラフィカルに国土面積に置き換えて表した地図で、中国、日本、インド、インドネシアとありますが、中国は非常に大きな面積になります。インドも大きくなります。こういうふうに見ると、中国の存在が非常に大きくなります。

図6 国別人口を国土面積で表した地図
図
↑画像をクリックすると拡大図が見られます。


(「基本地理A・問題集A634」二宮書店、1999)

 ところがこれを、図7のような形にしますと、日本が大きくなる。これは、国民総生産を国土面積で示した図です。これで見ると、日本は非常に大きくなり、アメリカも大きくなって、大国だった中国が小さくなってしまいます。いずれにしましても、このような図を見ると、非常にデフォルメされた特徴のある図がつくれるということが分かります。

図7 国民総生産を面積(国土の形態)で表現した地図
図
↑画像をクリックすると拡大図が見られます。


(石井素介監修「地理A 改訂版」教育出版、1998)

 ある市の統計を見ますと、企業数、従業員数がこの10年間ほとんど変わらないのに、工業構造が非常に大きく変わってしまったということが、ままあります。たとえば昔は装置型の産業といいまして、鉄をたくさん作って、1カ所でみんな働いて、そして1カ所の大都市に持っていくという形だった。こういう状態だと、統計をとってもそのままデータとして利用できます。
 しかし、皆さんがお持ちの携帯電話は世界中で分業しています。例えば、携帯電話の心臓部分はアメリカが作っている。着信メモリは日本で作っている。外側は埼玉県で作っている。外側のメッキは富山県でおこなっているというふうに、いわゆる工程間分業が今、非常に進んできています。
 これはパソコン生産について示した図です(図8)。ディスプレイは韓国と台湾で作っている。キーボードはマレーシア、韓国、タイで作っている。ハードディスはアメリカ、シンガポール、タイで作っている。ASICといいまして、半導体の中でもちょっと賢い半導体は日本やアメリカで作っている。こういうふうに国際分業がどんどん進んできております。

図8 パソコン生産における国際分業(工程間分業)の例示
図
↑画像をクリックすると拡大図が見られます。


 パソコンの主要部品およびその主要生産国(最も付加価値の高い部分の生産ベース)などを図示したもの、国等略称は、日=日本、米=米国、韓=韓国、香=香港、シ=シンガポール、マ=マレーシア、タ=タイ、中=中国である。これら製造国は、技術進歩などにより常に変動している。
(資料)通商産業省調べ
(「平成7年度通商白書」より)

 例えば、製造業の中では、大分類で第二次産業、中分類で製造業、小分類で電機・一般機械があります。もっと細かくなるといろんな業種が入ってきますが、その中でも、こういった部分を担当しているのが一つの会社であったり、さらにその下請だったりします。ところが、統計でいいますと、そういうものが全部「電機」で上がってきますが、別な産業の一般機械に分類される会社だってあります。なぜ一般機械のほうに分類されるかというと、電機を全然扱わないで、こういうものを作っているとか、あるいはハードディスクでも特殊な一部分の金属加工しかやっていないとなると、実際は電機産業の関連部門なのに、統計上の分類は電機機械には分類されずに一般機械のほうに分類される。そういうこともままあります。
 私が以前、砺波市で調査をやったとき、いろいろ細かく調べていったら、Sアルミと取引のある会社が門扉を作っていました。でもこの会社は電機産業としてカウントされています。生産品目が変わって、門扉を作り出しても、昔届けた当時の生産品目で分類されたままなのですね。統計というのは多数のデータを集計して、その傾向として見れば全然問題ないですが、小さな地域で細かく調べようと思うと、統計の「ブレ」が出てくるのですね。その点で、統計を利用するときには吟味して利用しないと思わぬミスにつながる場合があります。
 統計を表現する方法でGIS(地理情報システム)という考え方が、最近入ってきております。
 皆さんご存じの、ハンバーガーのM社があります。ここはGISの手法を使って店舗数を飛躍的に増やしました。M社の方法とは、コンピューター画面に地図を表示させながら、データベース(500m四方の範囲ごとの人口・年齢構成・世帯数・世帯収入)と連動させて仮想店舗の商圏を作成し売上を予測するのです(そこから出された予想売上高は実際出店した時の売上の5%の誤差といわれています)。こうして出店予定エリアにライバル店が何店あって、どのような形態の店舗にすれば儲かるかをシュミレーションしていったのです。
 GISという手法を使えば、コンピューターの端末操作でこれができます。これまで大体6ヶ月ぐらいかけてやった調査を、わずか3分に短縮してくる。そういう形で、1994年に1,000店余りだった店舗数をわずか5年間で3倍に増やし、他社を圧倒するシェアを獲得しました。つまり、経営のスピードが上がったのです。そういうGISの手法というのが入ってきております。基礎的なデータをGISの手法とドッキングさせることによって、経営が伸びた例です。
 この出店方法は、ライバル店舗をつぶしていく場合だと、例えばこういうケースが考えられます。道沿いの1,200人の市場に元々ハンバーガーA社があって、隣にライバルB社が立地してきたとします。A社がB社をつぶそうと考えた場合、どうやるかというと、B社を挟み撃ちにするようにもう1軒A社を作ります。すると新たなA社の出店によって、B社のシェアは市場の3/1に減ります。つまり、600人の市場が400人相手の市場に減少するのです。それで真ん中のB社はだんだん耐えられなくなってつぶれてしまう。こういうことを街中で繰り返していく。それでA社の看板がどんどん増えていって過剰出店になっていくと、適当なころを見計らって、収益の低い店をつぶして適正配置にもっていきます。
 立地論的にはこういう形で競争が行われる。この競争を行う元のデータはどういうふうに手に入れるかというと、皆さんたちがふだんやっている統計の仕事で上がってくる数字を加工して利用しているのです。さらに独自の実地調査を追加して、データの精度を上げていくのです。たとえば、店舗の半径250メートルに人口がどのくらいいるか、その近くに団地があるか、団地の中にどのくらいの人が昼間いるかを、天気のいい日の昼間に行って、ふとんの干してあるのをバードウオッチングのようにカウントする。ここにいる在宅率は何%かというのが経験的にわかってくる。そういう所で年齢層もだんだんわかってくると、パートで働いてくれる人もわかってくる。それで何とか経営的に成り立つとなると、店舗を増やしていきます。統計というものは社会でさまざまに利用されているのです。
 別の例ですが、この図9は、〇をマンションとしますと、このマンション分布図と行政区域図を重ねて、これを「バッファリング」といいますが、この場合半径500メートルのものが表示されます。こういうふうにやると、マンション、不動産の場合、ライバルが何軒あるかが分かります。

図9 空間分析の例
図
(井田・伊藤・村山編「授業のための地理情報」古今書院、2001)

 同じように例えば、上から航空写真を撮って、建ってから何年たっているかということなどが家の形状などで大体見当がつきます。それをデータに落としていきます。今度は半径500メートル以内の、例えば築後30年以上は赤とかいろんな色で表示すると、営業マンがそこに訪ねていって「お宅の家はそろそろ屋根瓦が傷んでいませんかとか、雨樋を交換しませんか」というふうにやってくる。無駄な営業をしないで、観察をすることによって、ターゲットを絞った営業ができるのです。
 これはGISにより阪神大震災の被災状況を示したものです(図10)。(1)は上水道配水管の被害箇所で、黒い部分が多いほど被害が大きい所です。(2)は木造建物の全倒壊率の分布図です。(3)は避難所とか上下水道の復旧率です。

図10 GISによる神戸大震災の被災状況(西宮市)の分析の一例
図
(岩井・亀田・碓井「1996年第5回地理情報システム学会講演論文集」)

 GISを応用することによって黒い部分がよくわかる。これは木造建築物がここに集中していることと、これは推定になるが、地盤が弱かったかもしれない、下水道管が壊れている所も地盤が弱かったかもしれないという見方ができるわけです。被害のない地区は白い部分です。そうしますと、避難場所の立地、配置をどこにするか、水や食料をストックする場所をどうするかというふうに、行政がGISを利用することによって、いろんなことが検討できるようになります。
 GISの手法を使ってデータを集計したり、統計分析を行ったり、地図の表現の工夫をやっていくことによって、地域の姿や地域の関係、地域群などが見えてまいります。
(平成13年11月20日 平成13年工業統計調査市町村説明会より。文責は統計調査課にあります。)

とやま経済月報
平成14年8月号