国勢調査からのメッセージ
第1回 広い住宅

とやま国際センター研究員  浜松 誠二


始めに

国勢調査は「情報の宝庫」といわれてきた。
といっても、自ら国勢調査報告書を紐解き、統計を拾い出し、再整理して新たな事実を発見することは、必ずしも容易ではなかった。国勢調査の統計を日常的に 見ている人など、身近にご存知だろうか。

しかし、情報化社会の中で、状況は大きく変わっている。
2000年に行われた国勢調査の結果は、詳細な統計までインターネットのホームページに掲載されつつある。このため、インターネットがブロードバンドの回 線に繋がってさえいれば、都道府県別の何冊にも及ぶ国勢調査報告書が、自らの机上にあることと同等になってきた。否、それ以上に、デジタル形式で情報が入 手できるということは、情報入力のための大変な手間が省ける。
さらに、パソコンのソフトも使いやすくなっている。これまで手書きでは考え付くことさえできなかった多様なグラフが容易に描ける。

今回から数回にわたり、この場を借りて、統計情報入手、解釈が容易となった説明を兼ね、2000年10月の国勢調査結果が富山県に伝えるメッセージを紹介 したい。


広い住宅

初回は、富山県の住宅の広さである。これは、新たなメッセージというより、このような大量の情報も容易に処理できる例として紹介したい。
まず最初の図は、都道府県別に、住居延べ面積(14区分)別世帯数の構成比を狭小な部分から累計したものである。

富山県は、全国の中でも、狭い住宅が少なく、広い住宅が多いことがよく理解できよう。例えば、富山県の100m2未 満住宅の比率は約3割に留まっている。これに対して、東京都では8割を超えている。

総務省の国勢調査の統計は、何らかの検索システムで「国勢調査」と入力すれば容易に行き着くことができる。この住宅統計は、その第1次基本集計結果の都道 府県別データから集めて一つの図としたものだが、ちょっとの根気で描きあげることができる。これに対して前回調査までは、まず47分冊の印刷物からデータ を収集し入力する作業が必要であった。




実は、住宅面積の広い狭いは、居住する世帯の規模を勘案すべきだという議論がある。富山県は世帯規模が大きいのだから住宅が大きいのも当然で、実質はどう かという議論である。
一人当たり面積という指標もあるが、これでは情報を縮約し過ぎて面白くない。

そこで、都道府県別に、世帯人員数(7区分)別、住居延べ面積(14区分)別世帯数の統計があるので、仮に世帯人員数別に住宅必要基準面積を設定し、この 面積に対する比率を住宅面積充足度と定義して、98(7x14)各区分の充足度を決めた上で、充足度階層別に世帯数を集計し、その構成比を描いて見ること ができる (参照;算出方法説明)。

これで、富山県では、世帯規模に比しても広い家に住んでいることがはっきりするのではなかろうか。例えば、富山県で、基準面積の4倍以上(充足度4.0以 上)、3〜4倍(同3.0〜4.0)、2〜3倍(同2.0〜3.0)の住宅に住んでいる世帯は、それぞれ10%、20%、26%であり、合計すれば基準の 倍以上の面積の住宅に住んでいる世帯は56%となる。これが50%を超えるのは、他に秋田県、福井県のみである。

説明が煩雑になっているが、このような煩雑な手続きでも、パソコンでいわゆる記録マクロの機能等を使って繰り返し作業を簡略に行えば、恐れる作業ではない ということである。

必要基準面積の妥当性はともかく、富山県で世帯規模に比しても面積が極めて広い家がこのように多いということはどういうことか。

これは、世帯主のライフサイクルの中で、最も世帯人員が大きくなる時期に合わせて家が準備されているということであろう。
ということは、仮に住宅市場が充実しており、自由に移り住むことができる住宅環境があれば、このような広い住宅は必ずしも必要ないのではという疑念が湧 く。資産価値の意味としても市場が充実し、土地だけでなく住宅もしっかりと評価されることが必要なはずである。

今後、一層の核家族化が進むとともに高齢者世帯も増加し、多様な形での住まい方が必要となり、転居も増加していくであろう。また、社会保障人口問題研究所 の推計では、富山県の総世帯数は2015年をピークに減少を始めるとされている。こうした中で住宅についての認識は再考される必要がありそうだ。