全国で活躍する富山県人企業
―高額法人所得にみる富山県人企業の特徴―
(株)富山県人社 月刊『富山県人』編集者
高島美奈子


はじめに
 日本には600万を超える事業所がある。人々の日々の暮らしに直結する個人商店から、世界に広がる大企業まで、その規模、形態は様々である。
 そんな中、富山県内はもちろん、県出身者が県外で事業を興し順調に業績を伸ばしている法人や、県人がトップに抜擢され活躍している大企業など、富山出身者が経営の陣頭指揮をとっている企業は全国に数多くある。
 県外で活躍している富山県人企業を、高額法人所得の資料をもとに分析してみたいと思う。

県外で富山県出身者が経営する高額所得法人
 月刊『富山県人』では、平成12年9月号で「富山県出身者経営法人所得ランキング」を掲載した。これは、昨年全国の税務署で公示された平成11年中の法人申告所得額(注)が4,000万円以上の72,708社の中から、県外で富山県出身者や関係者が代表(社長または会長)を務める法人を数え上げたところ、ちょうど300社となり、それをランキングしたものである。(本社が県内であるものは含まれない。富山県内の平成11年中の法人申告所得額が4,000万円以上の法人は、633社である。)

(注)法人申告所得は各種法人が所轄の税務署に申告する税務上の所得。法人申告所得4,000円以上(1年決算会社)は公示が義務づけられている。

〈上位10傑〉
 10位までをリストアップすると

と続いている。

〈300社の産業別内訳〉
  富山県人の高額申告所得法人300社を、産業別にまとめたのが「表1産業別高額所得法人数」の(a欄)である。これによると、製造業が99社(構成比33.0%)で最も多く、次いで卸・小売業・飲食店77社(同25.7%)、建設業52社(同17.3%)、サービス業36社(同12.0%)、不動産業16社(同5.3%)、運輸・通信業12社(同4.0%)、金融・保険業8社(同2.7%)の順となっている。
 一方、全国の高額申告所得法人を見てみると(b欄)、サービス業が20,563社(構成比28.3%)で最も多く、次いで卸・小売業・飲食店18,044社(同24.8%)、製造業15,684社(同21.6%)、建設業9,188社(同12.6%)、不動産業3,558社(同4.9%)、運輸・通信業3,126社(同4.3%)、金融・保険業1,926社(同2.7%)の順となっている。
 富山県人と全国を比較して分かるのは、富山県人の高額申告所得法人は、全国のそれに比べて製造業と建設業の割合が非常に高いということである。高額申告所得法人に限らず、全国の法人企業数(c欄)と比べても、製造業の割合の高さが目立つ。逆にサービス業は少ないと言える。

表1 産業別高額所得法人数(富山県・全国)
  (a)富山県人
高額所得法人
(b)全国
高額所得法人
(c)全国の法人企業
(平成11年)
企業数 割合(%) 企業数 割合(%) 企業数 割合(%)
全産業 A〜L 300 100.0 72,708 100.0 1,667,639 100.0
A〜C農林漁業 0 0.0 207 0.3 9,259 0.6
D鉱業 0 0.0 215 0.3 2,501 0.1
E建設業 52 17.3 9,188 12.6 301,882 18.1
F製造業 99 33.0 15,684 21.6 320,245 19.2
G電気・ガス・熱供給・水道業 0 0.0 197 0.3 525 0.0
H運輸・通信業 12 4.0 3,126 4.3 56,347 3.4
I商業(卸売・小売業)、飲食店 77 25.7 18,044 24.8 599,943 36.0
J金融・保険業 8 2.7 1,926 2.6 15,921 1.0
K不動産業 16 5.3 3,558 4.9 92,985 5.6
Lサービス業 36 12.0 20,563 28.3 268,031 16.1

〈製造業・商業・サービス業の中・小分類内訳〉
  さらに製造業、商業(卸・小売)、サービス業を、主だった項目で細分化したのが、「表2中小分類による高額所得法人数」である。ここで目立つのは、高額申告所得の富山県人企業は製造業では「飲食品製造」、「パルプ・紙製造」、「医薬品製造」、「金属製品製造」、商業では「化学製品と医薬品関係の卸・小売業」の割合が、全国と比べて高い。特に製造と流通ともに、富山の代表産業とも言うべき医薬品が高率なのは、偶然の一致か、必然か、興味のあるところだ。
 昨今の日本経済は依然低迷状態だが、その中でも収益を上げ、頑張っている県人企業があるのは心強いことだ。

表2 中小分類による高額所得法人数(富山県・全国)
  (a)富山県人
高額所得法人
(b)全国
高額所得法人
企業数 割合(%) 企業数 割合(%)
F製造業 99 33.0 15,684 21.6
1飲食品製造業 15 5.0 2,207 3.0
2繊維・繊維製品製造業 3 1.0 594 0.8
3パルプ・紙・紙加工品製造業 8 2.7 548 0.8
4出版・印刷・同関連産業 11 3.7 1,434 2.0
5化学工業(医薬品製造業を除く) 9 3.0 1,992 2.7
6医薬品製造業 8 2.7 287 0.4
7ゴム・窯業・土石製品製造業 3 1.0 1,039 1.4
8鉄鋼業 2 0.7 284 0.4
9非鉄金属製造業 3 1.0 278 0.4
10金属製品製造業 11 3.7 1,397 1.9
11一般機械器具製造業 4 1.3 1,887 2.6
12電気機械器具製造業 4 1.3 1,315 1.8
13輸送用機械器具製造業 5 1.7 783 1.1
14精密機械器具製造業 5 1.7 922 1.3
15その他の製造業 8 2.7 717 1.0
I商業(卸売・小売業)、飲食店 77 25.7 18,044 24.8
a.商業(卸売・小売業) 19〜25 73 24.3 17,433 24.0
19飲食料品卸売・小売 10 3.3 3,112 4.3
20繊維・衣服等卸売・小売 9 3.0 1,491 2.1
21化学製品卸売 11 3.7 918 1.3
22医薬品・化粧品等卸売・小売 8 2.7 593 0.8
23建築・鉱物・金属材料卸売 4 1.3 484 0.7
24機械器具卸売・小売 13 4.3 3,486 4.8
25その他卸売・小売 18 6.0 7,349 10.1
b.飲食店 4 1.3 611 0.8
Lサービス業 36 12.0 20,563 28.3
26映画・ビデオ制作業 2 0.7 156 0.2
27放送業 3 1.0 179 0.2
28情報サービス・調査業 3 1.0 1,717 2.4
29広告業 1 0.3 425 0.6
30その他のサービス業 27 9.0 18,086 24.9


富山県人が興した大企業
 さて、ここで富山のことをよく知らない人でもよくご存じの企業の中で、富山県人が興した企業を紹介してみたいと思う。
 明治、大正、昭和にかけて、日本が近代化を押し進めていた頃、先頭に立って活躍した富山県人がいた。当時は今のような豊かさはなく、厳しい生活からやむなく、あるいはまた立身出世を目指して、富山県人の多くが異境の地で身を粉にして働いた。その中、進取の気性、不屈の精神で事業に取り組み、日本有数の企業を築き上げた人たちである。
 富士銀行安田生命は、金融王・安田善次郎氏が一代で築き上げた安田財閥の流れをくむもの。セメント王・浅野総一郎氏が築いたアサノコンクリート。広告業をいち早く手がけた瀬木博尚氏の博報堂。メディア王・正力松太郎氏の読売新聞日本テレビ。鉄鋼王・ホテル王と言われた大谷米太郎氏の大谷重工ホテルニューオータニ。事務用品の黒田善太郎氏のコクヨ、出版業で成功した角川源義氏の角川書店、ファスナーで世界進出した吉田忠雄氏のYKK、ほかにも数え切れないくらいの大企業が今もなお健在である。現在、これらの企業は世代交代を重ね、創業者の2世、3世が引き継いでいるものもあれば、生え抜きの富山県人が要職にあるものもある。
 これらの企業を見ると、日本近代化の基礎とも言える素材産業や製造業のほかに、今脚光を浴びている情報産業を手がけた人が目立つのは、先を読む力があったと言えるのではないだろうか。

21世紀を迎えて
 富山県人には進取の気性があると言われてきた。現在、産業構造の転換、IT産業の育成が叫ばれている。変革激しい今こそ、かつて日本の近代化の荒波の中で、失敗を重ねながらも新事業を興し日本有数の企業を育て上げてきた先人の踏ん張りを思い起こし、21世紀の世の中を形作る県人企業が育つことを、同郷の者として期待している。
 先に見たように、現在活躍している県人企業は、基幹産業とも言える製造業や建設業の分野で多いことが分かった。今後、IT産業の成長とともに、情報サービスで業績を伸ばす企業が増えることになるであろう。富山県人の活躍を通して、時代の変化を見ていくのもおもしろいものだ。


(参考データ)