とやまブランドプロジェクトチーム第1回会議[平成17年6月10日]
1.開催日時・場所
◇日時 平成17年6月10日(金) 15:00〜18:00
◇場所 県民会館302号室
2.次第
1 座長挨拶
2 委員紹介
3 とやまブランド推進本部の取組みの概要について
4 「経営戦略としてのブランド」
(富山大学経済学部経営学科助教授 内田康郎氏)
5 「ブランディングの基本知識」
((株)博報堂クリエイティブ・ヴォックス 太田麻衣子氏)
6 協議
7 当面のスケジュール等について
3.資料
※関連ファイルをご覧ください。
4.議事録
4-1 「経営戦略としてのブランド」
●内田 康郎氏(富山大学経済学部経営学科 助教授)●
富山大学の内田でございます。平成 10年に東京から越してまいりまして、今年で7年、8年めになります。富山に住んで、子供が二人おります。非常に住みやすいというイメージを持ちながら、日々過ごしております。大学では主に経営戦略を専門としておりまして、特に企業の競争戦略に関して研究している者の一人です。率直に申し上げて、私はこのブランドということに関しては専門というわけではないのですが、マーケティングや競争戦略という側面からとらえて、今日お話し申し上げたいと思っています。また、このあと、太田さんからもいろいろと詳しいお話をいただけるかと思うのですが、私の話は企業の事例が中心になってまいりますので、何らかの今後の話題提供というような位置づけで、お聞きいただければと思っています。
今日、私は3点ほど簡単に申し上げようと思っています。まず、ブランドとは何か。今申し上げたように企業のということで、「ブランドとは」という話をさせていただきます。それから、2番め「ブランドの構築」。ちょっとこれは順番を逆にしたいのですが、「ブランドの効果」というところを先にお話し申し上げて、そのあと「ブランドの構築」、企業の具体的な例についてお話しさせていただきたいと思います。
まず、我々日常の生活の中で、写真か何かを見せられて、パッと味などを思い浮かべるものがあるかと思うのですが、そういう非常に強い強烈なブランドを持つ商品が幾つもあるわけです。では、ブランドとは一体何なのかといったときに、我々研究者がこれをきちんと説明するということは、非常に難しいと言えるかと思います。ただ、一つだけ言えることは、ブランドがあると、実態そのもの以上の価値を生むということが言えるかと思います。
例えば、フォルクスワーゲンのビートルという車があります。これはタイプ1といわれるもので、もう今、生産されていませんが、ドイツで、世界を代表するような車の一つですね。累積生産台数は1000万台を超えているというものなのですが、片や日本にも累積生産台数1000万台を超えているものがあります。カローラです。カローラとビートルというのは、両方ともそれぞれの国で愛されている車の一つですが、特にカローラに関して見てみますと、これは使う人の立場に立って改良に改良が重ねられて、バリュー・フォー・マネーというのでしょうか、そういった世界でも屈指の商品になっているかと思います。それに対して、ビートルに関しましては、カローラに比べますと、故障が決して少なくないということが言えますし、オーナーの手を焼くというようなことも聞いています。しかしながら、生産が停止されてから20年以上経過しているのですが、まだまだ一部には熱狂的な愛好家がいたりするわけです。しかも、専門の雑誌まであったりするわけです。こういったことは、カローラで同じことが言えるかというと、なかなか厳しいと思います。
それから、以前の小西六、現在のコニカミノルタのコニカC35AFというタイプのカメラがあります。これは世界で初めてオートフォーカスのカメラを作って、世に出したものなのです。これはカメラのユーザーを絞りやシャッタースピードといった煩わしい操作から解放した、専門家に言わせると、カメラ史上最高の技術革新といわれているものらしいのです。しかしながら、これを初めて市場に投入した企業がどこで、その商品名は何かと言われても、なかなかピンと来ないですね。これはいつごろ出されたかというと、昭和52年(1977年)で、「ジャスピンコニカ」というネーミングで出されたものです。当時価格は4万2800円でした。それに対しまして、「ウォークマン」。カメラとはちょっと分野が違うのですが、ウォークマンに関しましては、小型のテープレコーダーを再生専用にして、イヤホンをつけただけということになりますので、見方を変えれば、非常に画期的ではないと言っても差し支えないかと思うのですが、そのぐらいのシンプルな機能で出された商品です。ところが、「ソニーのウォークマン」といえば、世界じゅうの人々に愛されている、親しまれている商品の典型になっています。
幾つかまだあるのですが、このように比べた場合に、技術的に非常に優れているものと、片やそうでないものとがあったときに、必ずしもよい商品と強いブランドというものが一致しない場合もあったりするのです。これはスポーツの世界などでもそうです。例えば、これはちょっとファンのかたには怒られてしまうかもしれませんが、阪神タイガース、最近強いですが、一時期低迷した時代がありました。同じ阪神地域で、かつての阪急ブレーブス、その後のオリックスですとか、そういったところと比べると、強さの点ではやはり後れをとっていた時代があったかと思うのです。しかしながら、非常に熱狂的なファンがいて、非常に応援が熱かったということがずっと続いています。阪神の商品としての価値は、今でこそ強いですが、弱かったころを考えてみますと商品的な価値というものはもしかしたらそれほどなかったのかもしれないのですが、非常に強いブランドを持っていたということが言えるかと思います。
同じような話で、車のほうでも、例えばモータースポーツなどで、フェラーリというのがあります。F1などの世界では、最近これは強いですが、かつてはやはりルノーやホンダが非常に強かった時代がありました。最近90年代に入ってきて、アレジやミハエル・シューマッハといったドライバーを獲得して、優勝争いをするようになってきてはいますが、かつてはルノーやホンダが優勝争いを常にしていたということが言えるかと思います。しかしながら、フェラーリに関して言うならば、ものすごいオーラを持っていまして、車の好きなかたであれば、一生に一度は乗ってみたいというようなオーラがあるメーカーの一つですね。それに対してルノーやホンダの場合には、そこまでのオーラはないのではないかと言えるかと思います。
このようないろいろな事例があるのですが、では、改めてブランドとは一体何なのかということを考えてみた場合に、これはある有名な研究者が書いた論文の中から引用したのですが、「ブランドというのは製品やサービス、企業の象徴であって、それらが提供する価値のあかしと言える。それは信頼できる永続的なものでなければならない」といわれています。要するに、強いブランドはいずれも長期的に高い利益を維持できるということになるわけでして、それはなぜかというと、そのブランドに対して信頼を寄せる顧客が大勢いるからです。ブランドの真価というものは、顧客との間に結ばれるきずなが非常に重要であると言えるかと思います。
ただ、企業にとっての顧客は、企業から提供される価値の大きさを、客観的にデータに基づいて判断したりはしないのですね。普通は主観的判断、主観的な価値を築いて、そこで評価するということがありますので、その辺のことも今後見落としてはいけないのではないかと思っています。それと同時に、ブランドはただ単に広告・宣伝するだけでは、お客さんの心をとらえることができないということもいわれています。だれに向けてどのような価値を提供するのか、まずだれをターゲットにするのかといったことも、非常に大事だといわれています。
こういう研究をしているスコット・ワードですとか、こういった研究者によれば、ブランドにはピラミッドのように、1段めから2段め、3段め、4段め、5段めというような階層があるのだと言っています。いちばん下のところが、ブランド名を冠する製品やサービスが目に見える客観的で測定可能な特徴を備えているというところから始まるのですが、一段一段ほかの言葉で表現してみると、1段めは、まず最初は見込み客を獲得するところから始まるかと思います。それが2段め、次に一歩進んでいきますと、顧客化する。3段めに入ってくると常連客になってきて、4段めになると、ファンですね。最終的にはシンパになってくるというようなことが、こういった論文では書かれています。
ファンよりも強く、シンパになってきますと、その企業にちょっとしたスキャンダルなどがあっても、ずっと支持していくということがあるかと思います。一時アップルコンピュータが非常に調子が悪くなったとき、最近iPodでまた盛り返してきていますが、自分が最後の一人になっても、ずっとマックを使い続けるのだというようなユーザーもいたかと思うのです。私の周りにも実はそういう人間がいるのですが、5段めまで上がってしまうと、それだけ強い支持というのになるかと思います。ちなみに私の妻が最近韓流ブームにはまっていまして、ペ・ヨンジュンに対して5段めまで上がってしまっているのですね。私がうちでちょっと何か言っても、非常に強い反応が返ってきます。ですから、ファン以上の存在になってくると、ちょっとやそっとのことでは裏切らないといいますか、そういった強い同盟関係が結ばれると思います。
続いて、ブランドの効果ということなのですが、これに関しては、もう皆さんよくご存じかと思いますので、さらっと流しておきたいと思います。一つは新しいお客さんを獲得する、それから既存のお客さんを維持していく、また、お客さんがいろいろ周りに普及してくれる、それから、先ほど言いましたように支持をしてくれますので、製品自体が延命するというような効果があると思います。これは経営学の中では「見えざる資産」といわれていまして、目に見えない資産であり、非常に強い武器だということもいわれています。こういう武器を持っていると、企業は強いということもいわれています。なぜ強いのかというと、簡単に他社がまねできないということがあるわけです。ですから、ブランドというものを持っていると、非常に強い武器になると言えると思います。
3番めはブランドの構築に関してですが、ここがすごく大事になってくると思います。幾つもある事例の中で3点ほどご紹介させていただければと思います。一つめが強力なリーダーシップ、二つめはマーケティングの技術、3点めはブランド・プラットフォームというものがあります。
まず一つめですが、強力なリーダーシップを構築したときに、非常にその企業全体のブランドの価値が高まるという考え方になります。これは、例えばマイクロソフト、GE、トヨタ、ソニー、あるいはソフトバンクというような、株価の時価総額の高い企業に共通した特徴として、単にそれぞれの企業のビジネスが時流に乗っているとか、そういったことももちろんあるのですが、それだけではなくて、外部から見て、経営者、とりわけ最高経営責任者の顔がはっきりと見えるということが言えると思います。それは個人として見て個性的な経営者というだけではなくて、各企業の経営戦略を通して、企業の理念や価値、方向づけといったものが明確に伝わってくるというような効果があると思います。要するにこういった企業では、ブランド・シンボルとして、明快な夢と志に導かれた強いトップのリーダーシップが機能していると言えると思います。ですから、リーダーシップというものをその企業の顔としてどんどん育てていくということも、戦略論の世界では議論されていることです。
続きまして、マーケティングの技術的な側面でブランドを作っていく方法についてです。これは企業の出す製品あるいはサービスなどをブランドのシンボルとして設定することになるわけですが、これは二つほどさらに分かれてきます。一つは、これは東京大学の片平先生というかたがおっしゃっていることですが、ターゲットとする人をまず決めて、そのターゲットとした人々の頭の中に、預金通帳のようなものをまず作らせることが必要だとおっしゃっています。二つめとしては、その預金通帳の口座にどんどん入金させていく、常にためていくような、そういうシステムが非常に大事だと言っているのです。
何か分かりやすい事例はないかと思っていろいろ探してみたのですが、かつてアメリカでトヨタがレクサス、日本でいうセルシオを販売したときのやり方が、もしかしたらこれに該当するかもしれないと思って、ご紹介申し上げます。その当時、80年代初頭になるのですが、まずレクサスをだれに売るかということを考えていくのですね。そのときに、まず競合企業をどこにするかということをもちろん設定するわけです。それはどこかというと、メルセデスになるわけですが、メルセデスをターゲットにしていく。そして、メルセデスのオーナーのリストを、合法的な手段で集めていくのですね。登録記録から集めていくということらしいのですが、調べ上げていって、そのオーナーあてにダイレクトメールや、テレマーケティングを実施するということをしていったらしいです。また、その際に、ターゲットとするお客さんがどういう特性を持っているのかということも調べていって、そのときに、恐らくセルシオを求めるお客さんというのは、まず第一に既存の車とはちょっと変わった車に関心があるのではないかと。もう一つは裕福である。この二つの条件といいますか、これを仮説として打ち立てていくことになります。
それで、この二つの条件をクリアするお客さんをどうやって集めるかといったときに、クラシックカーのショーを開催するのです。そのときに入場を無料とするのではなくて、裕福なかたをお招きするということで、当時で15ドルの値段をつけて呼び込んだらしいですね。ですから、当時のレートでいうと、3000円近くするのかもしれませんが、それぐらいの金額で集めていくということをしたらしいです。そのショーに実際に来ていただいたかたに名前を書いていただいて、名簿を作っていくわけですが、その後すぐにその相手にダイレクトメールを送る。そのときにちょっとしたプレゼントのような包装をして、中にビデオテープと手紙を書いて送るわけです。その手紙というのは、次の週末に最寄りのディーラーでパーティーをするからということで案内状を出す。もう一つは12分間のビデオなのですが、ビデオの中身は、エンジンのかかったレクサスとメルセデスのボンネットを開けて、エンジンの上に水の入ったグラスを両方置いておくのです。それで、メルセデスのほうは水面が揺れている。それに対して、レクサスのほうは、非常に揺れがないというようなことを出して、いかに乗り心地が滑らかであるかということを訴えるようなビデオを作って、送っていったらしいですね。
今、言った事例の中には、まずターゲットを決めて、先ほど預金通帳という言葉を使いましたが、そのお客さんの頭の中にレクサスという預金通帳をまず作っておいてもらう。その預金通帳にどんどん入金していただくのですが、その際には、ただ単にこつこつと積み重ねていくのではなくて、今、申し上げたようなちょっとした驚きですとか、そういったものを入れることによって、ポーンと通帳の残高が増えていくというような効果をねらっているということが言えると思います。
3点めがブランド・プラットフォームということです。これは何かというと既存の個別ブランドが幾つもあるのですが、それをきちんと整理していこうという考え方です。その基盤となるブランドとしてプラットフォームを構築するというのがこの考え方になります。目的としては、全社としてのブランド価値を向上しようということに置かれている、ブランド・プラットフォームを作っていって、全体的に価値を向上させようということです。この場合のコーポレート・ブランド、ブランド・プラットフォームなのですが、これはその企業全体のブランドの看板に値するわけです。それと同時に、世の中に対する約束という意味も含まれてくると思います。これがただ単に作るだけではなくて、きちんと継続的にマネジメント、運営していかなくてはいけないので、ブランド・マネジメント戦略という呼び方がされています。
実際にリクルートがこういったやり方をとっていますのでご紹介申し上げたいのですが、リクルートの場合、「とらばーゆ」ですとか「Hot Pepper」、「じゃらん」、「ガテン」、「ゼクシィ」、「B-ing」など、いろいろな雑誌があって、それぞれブランドがあるわけですね。創業したのが、1960年(昭和35年)、現在は4500人ぐらいの従業員がいる企業なのですが、事業領域としましては、就職、転職、組織コンサルティング、学校選び、家選び、旅行、中古車選びなど、そういったいろいろな業務、それから雑誌を出版している企業です。しかしながら、こういったいろいろなものを出しているのですが、例えば「じゃらん」の発行元を知っているかというような調査を社内でやったときに、約3割の人しか知らなかったということらしいのです。それで危機感を感じたらしくて、そのギャップを埋めて、商品ブランドと企業ブランドを結びつけるために、ブランド・マネジメント戦略というものを導入したということらしいです。そして、ブランド・プラットフォームを構築していくことになります。
では、このリクルートのやっている、実際のブランド・プラットフォームの中身なのですが、まずリクルートブランドの基本コンセプトと、それをどの辺までカバーするのかということをきちんと言語化していった。まず最初に、ブランド・ビジョンというものがあります。ブランド・ビジョンとは何かというと、リクルートが実現したいと考えている社会、世の中というものを、このブランド・ビジョンと位置づけているのですが、具体的な中身としましては、「一人一人のさまざまな生き方、価値観を尊重し合って実現できる豊かな世の中を目指す」ということが、リクルートが想定している社会であり世の中だというようなことを設定するわけです。
それに対して、そのビジョンを実現するために、リクルートが果たすべき役割は何なのかというふうに落としていったときに、ブランド・ミッションが出てきます。具体的にはどういうことかというと、「常識あるいは慣習にとらわれない、自由な選択と行動をトータルに支援する」というものが、リクルートが先ほど掲げたブランド・ビジョンに対して果たすべき役割だと設定しています。
さらにリクルートのビジネス、事業分野の根本にあるものを定義していこうというのが、ブランド・バリューになります。今、申し上げたブランド・ミッションをもう少し細かく、どういうふうにやればいいのかということで、ブランド・バリューというものがさらに細かく分かれていきます。これは価値の基礎、機能的な価値、感覚的な価値というふうに分けていくわけです。このように落とし込んでいくということをこの企業ではやっています。
最後に、こういうことをして、リクルートが実際にブランド・プラットフォームをどのようにしたのかとなりますと、今申し上げたような内容から「FOLLOW YOUR HEART」というようなブランド・プラットフォームを築いていきます。意味としてはどういうものかというと、自分に素直に生きよう、自分で決める、自分ならではのライフスタイルを提供していこうということを、この企業全体のブランド・プラットフォームにする。そこから派生する形で、「B-ing」、「ガテン」など、ほかにもいろいろ先ほどの商品ブランドがあるわけですが、例えば「B-ing」に関して言うならば、「自分らしさを生かせると、もっと人生が楽しくなる」とか、「ガテン」であれば、「初めからできるやつなんていないさ」とか。それから、いちばん下の「アントレ」。「アントレ」というのは独立して起業するかたを応援する雑誌なのですが、「雇われないで生きていく」というようなコンセプトで、ブランドをそれぞれまた細かく分けていくというやり方をとっています。
リクルートのそういった事例が最終的に私が申し上げた3番めのブランド・プラットフォームというものなのですが、もちろんこれ以外にもいろいろなブランドの構築のしかたがあるかと思います。今、私が申し上げたのは、代表的というわけではないですが、今まで比較的うまくいっている企業の事例として、幾つかご紹介申し上げました。
以上、私が今日ご用意させていただいたのはこういった内容なのですが、初めに戻りますと、ブランドというのは、非常にイメージとしては分かりやすいのですが、しかしながら、それを実際に作っていく段階になってくると、非常に難しいものがあります。ですから、逆にいうと、これは簡単にこうすればいいのだという特効薬みたいなものがあれば、すべての企業や組織でやるわけですので、逆にそんなものはなかなか見付からないということが言えると思います。ですから、こういった場で、いろいろな議論などを踏まえて、少しずつ作っていければと思っています。