天  界

 浄土路である陽の道を経て、たどり着く世界が天界です。立山曼荼羅では、地獄はその有り様が
人間界における日常の延長として、針や剣、釜などによって具体的に描写されていますが、立山山
頂にあるとされた浄土の世界は、多くの飛天や菩薩と共に、阿弥陀如来が来迎する光景を描いて
いるのみで、天界の様子は見えません。
 このため、古代インドにさかのぼる須弥山思想、禅定者のめざす悟りの世界である色界、無色界
と、我々凡夫が到達できるという極楽浄土の世界、そして精神世界を象徴する芸術、この3つの概
念、あるいは表現で、想像の世界である天界を構成しています。
 また、現実世界との生々しい関係を表現する手段として地界を地上に現わしたのに対して、未知
の世界は現実へと引き戻す諸々の要素を排し、現実世界と全く隔絶した空間となるよう、全体を地
下に埋めています。
須弥山をかたどった天界広場天の廻廊
天界の構成

 まず須弥山世界の転写として、天界広場、天の廻廊があります。天界広場は須弥山の世界観をモ
デル化したものであり、ゆるやかに湾曲し下っていく天の廻廊は、須弥山上に住まう天たちを音と香
りに転換し、天を想像する世界へと導きます。
 仏教の歴史的構図の中における禅定者の世界は、呼吸するようにうつろい、変化する光や、かす
かに聞える音などによって天至界、天界という悟りに至る空間に重ねられています。また美しく、きら
びやかな極楽浄土の世界を、五色の光彩を放ち浮遊感に浸る、たゆたうような音と香りの空間、天界
奏楽洞と天遊桟敷に現しています。
 芸術が発するメッセージは、しばしば時の流れを変え、異空間を垣間見せ、新たな認識を与えなが
ら、鑑賞者を想像の世界へ導いてくれます。迷路空問に点在する天界窟は、7人の現代のアーティス
トや建築家が天界をテーマに創造した世界となっています。コンクリート、金属、木、紙など様々な素
材、空間そのものや造形、テキスタイル、書などで表現された世界は、さながら敦煙の石窟のように
一窟ごとが観想の場となり、天と我々を新鮮なイメージでつないでくれます。また奏楽洞に置かれた天
子天女たちの楽器もまた、天の世界を体験し、想像する芸術の一つです。
 天界の空間構成は、光や音、香りを微妙に制御することによって、刺激を和らげ、あるいは消し去り
空間を変容しながら、静寂な無の世界に近づけていくようになっています。
 天界は、五感を通し人間の内宇宙を押し広げ、観想を誘い、想像を促し、未知なる世界を感得してい
くことを目的としています。

天界窟天至界



お問い合わせ著作権サイトマップ