バ イ
ツバイ バイは、 富山では最もよく食べられている巻貝であり、 知らない人はいないと思う。 しかし、 バイがどのような生物であるかは、 その味ほどには知られていない。 そもそも、 バイという呼び名からして、 多少の説明は要するのではないだろうか。
 一般的な名称としてのバイとは、 エゾバイ科の巻貝のうち、 食用となる種類のことである。 その代表的なものに、 標準和名をバイといい、 浅海域に生息する種類が挙げられる。 富山ではアズキバイなどと呼んでいる。 一方、 富山でふつうバイと呼んでいるのは、 水深200〜1,000メートルの深海に生息するエゾバイ科の食用巻貝の総称である。 富山湾に生息する種類を標準和名で挙げると、 オオエッチュウバイ、 カガバイ、 ツバイ、 エゾボラモドキとなる。 ただし、 カガバイは、 日本海の深海底に広く分布するエッチュウバイと同種である可能性が高い。 ツバイは小型であることから、 煮物として利用され、 エゾボラモドキは肉質が固く、 刺身で食べられる。 オオエッチュウバイやカガバイの場合、 大きなものは刺身、 小さなものは煮物で食べられる。
 バイは深海の泥底に生息し、 動物の死肉を摂食している。 このため、 バイの漁獲方法としては、 かごの中に餌を入れ、 集まってきたバイを捕まえる、 かご網漁業が行われている。 オオエッチュウバイ
 深海性バイ類で、 特に興味深いのは、 産卵生態や稚貝の発生過程である。 いずれの種類も、 雌雄異体で、 雄は生殖器官としてペニスを持ち、 交尾によって体内受精が行われる。 エゾボラモドキの雌は、 交尾から1か月ほど経たつと、 同種の貝の殻の上に卵嚢(らんのう)(2,000個ほどの卵が入ったカプセルみたいなもの) を40個ほど産み付ける。 しかし、 1年以上経過した後に、 それぞれの卵嚢から孵出(ふしゅつ)してくる稚貝は1個体しかいない。 なぜなら、 卵嚢中の約2,000個の卵は、 1個を除いては栄養卵と呼ばれものであり、 稚貝になる1個の発育卵に吸収されてしまうからである。 しかし、 孵出する稚貝は大きく、 殻高7〜9ミリある。 これは、 孵出稚貝の数ではなく、 質 (大きさ) で生存競争に勝ち抜こうとする戦略なのであろう。 一方、 カガバイの雌は、 1回に産卵する卵嚢数が多く、 200個以上に及ぶこともある。 1卵嚢内の卵数はエゾボラモドキと同じく約2,000個である。 1つの卵嚢から10〜30個体の稚貝が孵出するが、 殻高は約2ミリで、 エゾボラモエゾボラモドキドキと比べるとかなり小さい。 1回の産卵でまとまった数の稚貝が得られるので、 水産試験場では、 現在、 カガバイの種苗生産に取り組んでいる。 カガバイは、 先に挙げた深海性エゾバイ類の中では分布水深の上限も浅く (200メートル)、 水温の適応範囲も広いので、 深層水 (3℃) をさらに冷却する必要はなく、 汲み上げたままで飼育できる。カガバイ
 最近は、 マスコミなどで環境ホルモンについて取りあげられることが多々ある。 環境ホルモンは、 生物の生殖に異常をきたすことで知られている。 浅海性のバイ (標準和名がバイ) などでは、 環境ホルモン (有機スズ) により、 雌の雄化現象 (インポセックス)、 つまり雌にペニスが生じる現象が起こっている。 富山湾でも、 1980年前後に、 浅海にすむバイなどで、 このような異常を来(きた)した個体が見つかっている。 深海性のバイ類への環境ホルモンの影響が気になるところであるが、 カガバイを採集して調べてみたところ、 幸いなことにインポセックスは認められず、 胸を撫(な)で下ろしている。 (瀬戸)