アジ・サバ・イワシ類
ゴマサバ
マサバ
 アジ・サバ・イワシ類は、 「多獲性浮き魚」 あるいは 「大衆魚」 という呼ばれ方をする。 消費者からみると、 値段の安い庶民の魚であるが、 小骨が多く、 背の青い魚の常として、 鮮度の低下が早く、 生臭くなりやすいことから、 近頃は敬遠される傾向にある。 鮮魚として消費されるかわり、 全国的には魚類養殖用の餌や、 フィッシュミールに加工され、 家畜やペットの餌として利用される割合が高い。 特にマイワシはフィッシュミール産業の大切な原料である。 しかし、 富山県では、 フィッシュミール加工業が成立するほどの漁獲量はない。 イワシ類の 「煮干し、 ごまめ」 サイズが加工用として、 アジやサバの大型魚が鮮魚消費向けとして比較的高値で取り引きされる以外、 きわめて低い浜値しか付かない。  これらの魚は暖水性で、 海の表層を生活の場としている。 大きな回遊をして日本周辺に広く分布し、 一つの種としての資源量が大きく、 大量に獲られることが特徴である。 このため、 多国間で利用されるので、 TAC対象魚種となっている。 正確にいえば、 アジの仲間ではマアジが、 サバの場合には、 区別が難しいのでマサバとゴマサバを合わせたものが、 そしてイワシ類 (マイワシ、 カタクチイワシ、 ウルメイワシの総称) ではマイワシが、 「TACの魚」 となっている。 ウルメイワシ カタクチイワシ  富山県では、 マアジ、 マイワシ、 カタクチイワシの漁獲量が多い。 これらのほとんどは、 定置網や八艘張(はっそうばり)網漁業で獲られている。 マアジは1年で2万トン近く、 カタクチイワシ、 マイワシも1万トンを超えて獲られたことがあった。 近年までは、 富山県で1年間に水揚げされる全魚種の漁獲量は多くても3〜4万トン程度なので、 この量がいかに多いかがわかる。 しかし、 サバ類は少なく、 最高でも3千トンを超えたことがない。
 アジ・サバ・イワシ類は大量に獲られていると書いたが、 すべての種が同時に多く獲られるわけではない。 富山県での年々の漁獲量の変動をみると、 サバ類でははっきりしないが、 マアジ、 カタクチイワシ、 マイワシでは、 この順に大量に獲られる時期が移り変わってきている。 これは 「魚種交代」 と呼ばれる現象である。 魚種交代現象は、 それを演じる魚たちの生活のしかた、 特に餌や分布範囲が似通っているために起こる現象と考えられている。
 魚種交代を演じる魚は、 海の中に広く、 大量に存在する動物プランクトンを (マイワシ、 カタクチイワシでは植物プランクトンも) 餌としており、 広い範囲に生息できるばかりでなく、 個体数を爆発的に増加させることができる。 しかし、 互いの生活のしかたが似ているため、 1つの種の個体数が増大しているときは、 他の種は個体数を増やすことができないと考えられている。
漁獲量が爆発的に増えたときと低迷したときの比は、 富山県の場合、 カタクチイワシが88倍、 マアジが106倍、 マイワシは実に2,100倍に達している。 そしてこれは富山県だけのことではなく、 日本周辺で起こっている現象の一部でもある。 マイワシは、 1964年には日本全体でもわずか9千トンあまりしか獲れず、 幻の魚といわれたことがあった。 ところが24年後の1988年には449万トンも獲れた。 しかしこれをピークに急減し、 わずか7年後の1995年には66万トンと最盛期の15マアジ%に落ち込んだ。
 大量に獲れる時期とそうでない時期があることは、 それを利用する立場からは厄介な問題である。 事実、 マイワシを主な原料とするフィッシュミール産業は、 現在存亡の危機に立たされている。 漁師の立場からしても、 獲れない時は不漁に泣き、 獲れすぎる時は大漁貧乏の憂き目をみることになる。 なぜ魚種交代現象が起こるのか、 次は何が増えるのか、 この問題は多くの水産研究者が精魂を傾ける、 水産研究の一大テーマでもある。 しかしながら、 今のところ確かな答えが得られているとはいえない。
 富山県の漁業も、 魚種交代の大波を免れることはできない。 しかし、 いたずらに不漁を憂い、 大漁貧乏を嘆くのではなく、 科学的な知識を深めて適切な予測に努め、 自然のダイナミックな動きに対応する工夫が必要である。 なにより、 「太陽エネルギー → 植物プランクトン → 動物プランクトン → 大衆魚」 というように、 大自然が莫大な時間をかけて培った、 生態系の有機物生産の道筋において、 「大衆魚」 は太陽エネルギーを人間が利用できる形にまで高めてくれているのである。 これをもっと大切に扱う姿勢が必要であろう。 (内山)