富山県衛生研究所年報 第30号から抜粋


ウイルス部の業務概要


[行 政および依頼検査]

感染症発生動向調査

「感染症の予防および感染症の 患者に対する医療に関する法律」および「感染症発生動向調査実施要領」に基づき,県内の医療機関や厚生セン ター・保健所から依頼を受けた検体について,ウイルスおよびリケッチアの検査を行った.インフルエンザおよび呼吸器系疾患については,129症例中115症例からウイルスが検出された(AH1型インフルエンザウイルス5名,AH3型インフルエンザ ウイルス60名,B型インフルエンザウイルス49名,アデノウイルス31名).これらの検査結果の多くはインフルエンザ流行予測調査にも含まれており, 詳細については,本年報に掲載されている流行予測調査報告を参考にされたい.感染性胃腸炎では127症例の依頼があり,このうち99症例においてウイルス が検出された(ノロウイルスGenogroupT;NVGT5名,NVGU88名,サポウイルス1名,アデノ40/411名,A群ロタウイルス2名,A 群ロタウイルス+アデノウイルス21名,パレコウイルス11名).食中毒では256症例の検査を行い,このうち121名からNVGUが検出された.無 菌性髄膜炎では,3症例のうち1名からコクサッキーウイルス(CoxB2型が,2名からCoxB5型が検出された.手足口病では,18症例中2症例から CoxA16型が,15症例からエンテロウイルス71型が検出された.ツツガムシ病では,2症例のうち1症例からツツガムシ病リケッチア (Kawasaki型)が検出され,他の1症例ではリケッチアは検出されなかったが,血清中のリケッチアに対する抗体価の上昇がみられた.脳炎・脳症3症 例,心筋炎1症例,Q熱疑い2症例については,いずれもウイルス等は検出されなかった.

 

動物由来感染症実態調査

 平成13年度から,野生動物が関連する動物由来感染症の発生監視体制の確立を目的に,野生げっ歯類をモデル動物として 調査を行っている.18年度にはつつが虫病及び腎症候性出血熱の浸淫調査のため野生げっ歯類80個体を捕獲した.さらに,旗ずり法等によりマダニ類258 個体を採集した.野生げっ歯類計80頭について,腎症候性出血熱ハンタウイルス(Hantaan型,Puumala型)に対する抗体の保有調査を行った が,抗体は検出されなかった.一方,つつが虫病リケッチアに対する抗体について調査したところ,2頭(2.5%)がKato型とKarp型両者に対する抗 体を保有していた.県内の患者で流行している,Kawasaki型と交差反応するGilliam型に対する抗体は,全て陰性であった.

 国内に侵入が懸念されるウエストナイル 熱等を含む蚊媒介性感染症対策として,平成15年度から,県内における蚊の生息状況の調査 を開始している.蚊の成虫調査では,18年度は17年度に比べ,コガタアカイエカが顕著に減少した一方,アカイエカはやや減少し,ヒトスジシマカは逆に増 加した.蚊の幼虫調査では,富山市保健所及び各厚生センターの協力のもとに,49箇所で調査を行った.256個の溜水環境を調べたところ,196個が有水 で,その内の54個から61,209個体の幼虫が採集された.幼虫の種類は,ヤマトヤブカとヒトスジシマカが多くみられた.蚊の成虫4,347個体, 536プールを用いてウイルス保有調査を行ったが,日本脳炎ウイルス,ウエストナイルウイルスともに検出されなかった.また,同時に行った豚血清からの日 本脳炎ウイルス分離でも,ウイルスは分離されなかった.

 これらの研究は,がん研究部と共同で 行った.

HIV抗体検査

平成184月から平成 193月までの1年間に176件の血液についてHIV抗体検査を行ったところ,すべて陰性であった.

  

感染症流行予測調査

日本脳炎日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイ エカの発生は,8月の第2週まで低く推移したが,その後徐々に増加し9月第1週にピークを 迎えた.そして,10月には減少した.年間の総捕集数は,17年度に比べ4分の1に減少した.一方,県内産ブタの日本脳炎に対する抗体陽性率は7月は 8.0%であったが,8月は67.0%に増加し,9月は31.0%10月は54.0%となった.ウイルスの新鮮感染を示すIgM抗体を保有するブタは, 7月下旬から確認され始めた.その後は8月中旬にピークを迎え、10月中旬まで存続した.すなわち,18年度の日本脳炎ウイルスの浸淫は7月下旬より始ま り10月まで続いた.また,ブタの血清から日本脳炎ウイルスの分離を試みたが、ウイルスは分離されなかった.抗体保有状況を「日本脳炎ブタ情報」として富 山県感染症情報センターのホームページに毎週掲載した.

ポリオ県内のポリオウイルスの動向を把握するために,感染源調査と感受性調 査を実施した

感染源調査:平成191月,平成189月に,新川厚生センター管内,砺波厚生センター管内における健康な乳幼児73名の糞便を採取し,ウ イルス分離を行った.その結果,アデノウイルス1型が3名から,アデノウイルス2型が2名から,パレコウイルス1型が8名から,コクサッキーウイルスB5型がそ れぞれ1名から検出されたポリオウイルスは検出されなかった.

感受性調査:平成18 6月〜9月に,0歳から69歳までの275名の血清について,ポリオウイルス(弱毒セービンウイルス)に対する中和抗体価を測定した.ポリオウイルス各型 に対して4倍以上の中和抗体価を保有する割合は,1型では91.3%2型では 97.8%3型では76.0%であった.また,各型に対する平均抗体価は,1型は98.7倍,2型は73.4倍,3型は20.7倍を示し,集団免疫としては良好な抗体保有 状況であった.これらの結果から,本県においては,野生型ポリオウイルスの侵淫や,ポリオ流行の可能性は少ないと考えられた.しかしながら,すべてあるい はいずれかの型の抗体を保有していない人が29.1%おり,ポリオウイルス常在地からのウ イルス侵入警戒,海外渡航や育児従事にあたっての注意が必要である

インフルエンザ:インフルエンザの予防と流行状況の把握のために, ヒト感受性調査(200669月)と感染源調査(20069月〜20075月)を実施した.

感受性調査:インフルエンザ流行期前にお ける富山県住民275名の抗体保有状況について,4種類のインフルエンザ抗原を用いて調べた.血球凝集抑制 (HI)抗体価40倍以上の力価を示す抗体保有率は,ワクチン株のA/New Caledonia/20/99(H1N1)株,A/Hiroshima/52/2005(H3N2)株およびB/Malaysia/2506/2004 株(ビクトリア系統),そして参考株のB/Shanghai/361/2002 (山形系統)に対して,各々50.9%,40.7%,7.6%,48.7%であった.B型(ビクトリア系統)に対する抗体保有率は依然低く,流行が危惧さ れた.

感染源調査: イ ンフルエンザの流行は,20071月中旬から5月上旬までの約5か月間にわたり継続した.インフルエンザウイル スの分離については,AH1型が12株,AH3型が95株,B型が79株であった.シーズン前半はAH3型とB型がほぼ同じ割合で分離されたのに対し,AH1型はシーズン終盤で分離された.分離株の抗原解析の結果,AH1型およびAH3型分離株ではワクチン株と異なる抗原性を示すものが多かったが,B型分離株は全 てビクトリア系統で,ワクチン株と抗原性がほぼ同じであった

 


[調査研究]

 ウイルスウォッチプログラム
 

富山県における環境水のウイルス汚染実態 調査は,河川,下水流入水および名水を対象に,1979年から断続的に実施している.これ までの調査で,富山県内の河川は多種類の腸管系ウイルスで汚染されていること,検出されたウイルスはほとんどヒト由来であること,また,最近のウイルス検 出頻度は1979年頃よりも低くなったことなどが判明した.平成18年度からは,地域における腸管系ウイルスの侵淫状況を把握するために,下水処理場の未 処理流入水について,毎月,ウイルス検索を実施中である.また,2002年の調査で河川から多く分離されたエコーウイルス13型(E13)について,平成 17年度に引き続き,同時期に検出された無菌性髄膜炎患者由来株との遺伝子の比較を行った.その結果,河川水由来および患者由来E13はすべての領域で差 が少なく,よく相関することが判明した.このことから,環境水のウイルス調査は,地域で流行するウイルスを追跡する方法として有意義であると考えられた.


急性胃腸炎の集団発生事例について
  

富山県内で20064月から20073月までの1年間に発生届けのあった,ウイルス性の感染性胃腸炎の集団発生事例につ いてまとめた。2006年度中に調査したウイルス性急性胃腸炎の集団発生は28事例であった。これら全てよりノロウイルス(NV)が検出された.うち1事 例はNV GenogroupT(GT)によるもの,27事例はNV GenogroupU(GU)によるものであった.NV GUは全てがGU/4型であった.

老人保健施設・障害者施設での発生が最も 多く10事例あった.その他に,飲食店で6事例,宿泊施設で5事例,小学校等で4事例,病 院で2事例,旅行中で1事例の発生があった.集団発生では,28事例中24事例の遺伝子配列が各事例内で100%一致し,少なくともこの24事例の集団発 生は,同一のウイルス由来である可能性が高いことがわかった.他の4事例では複数のウイルスが検出されたが,それぞれの相同性は99.099.7% 302塩基中31塩基の違い)であった.

 


  [富山県感染症情報センター]

   

富山県感染症情報センターでは,感染症発 生動向調査実施要領に基づき,全数把握感染症については各管内の全医療機関から,定点把握感染症については県内延べ70定点医療機関から各厚生センターおよび富山市保健所へ,週報および月報として報告されたデータを集計し,中央 感染症情報センターへ送信した.

 県内および全国の感染症発生動向の情報 は,速報あるいは週報の印刷物として関係機関へ毎週送付するとともに,富山県感染症情報センターホームページで一般公開している.

ま た,本年度も「富山県感染症発生動向調査事業報告書」を作成し,関係機関に配布した.