富山県衛生研究所年報 第30号から抜粋


がん研究部の業務概要


[行政および依頼検査]

先天性代謝異常等マス・スクリーニング
 平成18年度の検体総数は10,216件で,県内45か所の医療機関で採血され,送付されたものである.受検児は出生 数の88.4%(里帰り分娩を含めると102.8%)であり,前年同様高い割合であった.検査項目は,フェニルケトン尿症,ホモシスチン尿症,メイプルシ ロップ尿症,ガラクトース血症,先天性甲状腺機能低下症および先天性副腎過形成症の6疾患である.検査の結果,要精密検査として39人(フェニルケトン尿 症疑い3人,ガラクトース血症疑い2人,先天性甲状腺機能低下症疑い25人,先天性副腎過形成症疑い9人)がスクリーニングされ,クレチン症の患者6人が 発見された.

染色体検査 
 平成18年度の検体数は,血液41,羊水68件と自然流産胎児20件の計129件で,うち,染 色体異常を示したものは,血液1件(均衡転座保因者1件),羊水5件(クラインフェルター症候群1件,18トリソミー症候群1件,21 トリソミー症候群1件,9番染色体部分トリソミー1件と均衡転座保因者1)流産胎児10件(13 トリソミー症候群2件,4トリソミー1件,9トリソミー1件,14トリソミー症候群1件,18トリソミー症候群1件,22トリソミー症候群1,47, XY,+16/46,XX1件,68,XX 1件および93,XXXX,+mar 1件)の計16件であった.染色体検査の依頼理由(主訴)は,血液では流産を繰り返す,羊水 では高齢妊娠および胎児異常の疑い,流産胎児では流産を繰り返すが最も多かった.

衛生動物検査
行政検査として、日本脳炎流行予測事業に おける媒介蚊の発生調査は17年度と同一の7ヶ所の畜舎において6月から10月まで行っ た。18年度は7ヶ所全ての定点で、前年度に比べ明瞭にコガタアカイエカの捕集数が減少した。とくに上市定点では1/18と顕著な減少を示した。また、動 物由来感染症予防体制整備事業におけるダニ類の調査を春と秋に、蚊類の分布および発生調査を5月から10月まで前年とほぼ同じ規模で行った。マダニ類は6 258個体、ツツガムシは151721個体が得られた。蚊類の調査では、成虫で9種類1011個体が得られ、幼虫では61209個体が採集され、環 境による種構成および採集数(生息数)に相違がみられた。
 日常の検査として、各厚生センターや市町村などの行政機関および各種事業所からの食品混入昆虫などの同定検査 を80件行った。



[調査研究]

がん発生要因の実験的研究
 カテキン含有量が多いとされ る煎茶粗抽出物を用い,哺乳動物培養細胞の染色体核型への影響を引き続き検討した.正常アフリカミドリザルの染色体核型には二次狭窄を有する染色体がペア で存在するが,VERO細胞では一つが欠落し,対を構成しない状態で安定している.粗抽出 物による二次狭窄染色体の数的変動への影響の有無を検討したが,培養中の濃度の高低に関わらず,変化は認められなかった.
 富山県における大腸がん発生背景要因についての症例対照研究で得られたデータを,調査サンプルの県内分布(居 住地域)を考慮に入れて,再解析中である.また,かつて実施した胃がん発生背景要因に関する症例対照研究と大腸がん研究のそれぞれの結果について,背景要 因の異同を比較検討している.

先天性代謝異常症等のマス・スクリーニング検査法 に関する研究
   これまでに乾燥ろ紙血液中の遊離カルニチン及び総ア シルカルニチンの定量法として,酵素法によるガラクトースの測定残液を用い,ガラクトース分析に続けて,カルニチン類を測定する方法を報告した.しかし,こ の方法は分析時間に5時間以上を要するため,今回,カルニチン類を単独測定することで迅速 化を図ることを検討した.本法を一般新生児の血液ろ紙1813検体に適用した結果,遊離カルニチン,総アシルカルニチン及び総カルニチン定量値の平均及び 標準偏差は順に31.3±8.3nmol/ml, 22.2±6.7nmol/ml及び53.4±13.1nmol/mlであった.
  グルコース-6-リン酸脱水素(G6PD)異常 症は,ガラクトース血症のマス・スクリーニングで偶然発見される疾患の1つであり,富山県では,2人の患者が発見されている.この疾患はG6PD活性を測 定することにより確定診断されるが,現在全国に酵素活性を測定する施設がなく,医療機関からの依頼があったため,マス・スクリーニング用血液濾紙を使用し たG6PD活性の簡易測定法を検討した.今年度は,酵素活性を定量する方法を検討した結果, rate assayで短時間に多検体を測定することを可能とした.この方法での一般新生児の濾紙血液中のG6PD活性は,5.23±1.16 U/gHbであった.

染色体に関する研究
 微細欠失,転座,合併異常, モザイク等複雑な染色体異常の場合,通常の染色体分析では正確な判定が得られないことがあり,fluorescence in situ hybridizationFISH)法と併せ,判定することが多くなっている.微細な均衡転座,モザイクの検出に応用し,良好な結果 を得た.また,脆弱X症候群の特徴であるfra(Xq)は特殊な培養法でのみ検出できる.しかし,低頻度の場合,検出が困難であるため,培養時の血清量に 着目し,検討中である.

突然変異原性に関する研究
 小核試験は染色体 異常のなかの染色体切断を指標とした試験法として確立されている.しかし,どの部位で切断が起きているのかは今の小核試験では特定することはできない.最 近マウスのFISHプローブが開発されつつあるので,この方法を導入し,新たな変異原性試験法を検討中である.

衛生動物に 関する研究
 オロロ(イヨシロオビアブ)を主体とする 県内のアブ相をより精確に把握することを目的に、ボックストラップとマレイズトラップを結合したCombination Trapを設置し、その効果・成 果を検討した。その結果、両トラップの利点を導き出す効果が得られ、従来の各種トラップに比べ、種類数、捕集数とも増加する結果が得られた。
 へクサンボ(クサギカメムシとスコットカメムシ)の発生動態研究では、近年の発生が遅れる傾向がみられることを再確認した。その原因について は現在精査中である。
 平成15年度から開始した感染症媒介蚊の発生動態調査では、成虫および幼虫において家屋の立地環境に より採集される種類相、数に相違を認めた。また、農村部の住宅団地の1民家において、幼虫の発生源対策を重点的に行った駆除実験では、不明瞭な結果になっ た。その主な原因は、周囲からの蚊の移入が早いことに由来すると推定された。